無事に終わった定例会議に深く溜め息を吐きつつ、楯敷君はもうすぐ攻めて来るという予感を感じ、身体の芯が冷える気持ちになる。
怖い。
ただ、怖い。
私という人間を構築していた、三十年近く共に過ごしてきた『物語を繋げる能力』を奪われた場合の被害を想像し、吐き気を催してしまう程に恐ろしい。
この数瞬の最中にも楯敷君は強さを増し、ノバショッカーは増長を続けている。その事実が私の事を蝕み、ドクトル・バタフライ達は彼らを止める術を求める。
対抗手段を得る方法は有ります。
『前世の記憶の保持』
私の『特典』の抑圧・制御を解除してしまえばノバショッカーを構築する現段階の情報を逐次得る事は出来ますし。なにより強い相手の情報を先んじて用意できます。
「(使えば今度こそ負荷に耐えられない)」
ゆっくりと胸に手を当てて、小さく鼓動を繰り返す心臓に歯痒さを覚える。もっと私の心臓や精神が強ければ、みんなを手助け出来るのに─────。
せめて、戦える心が在れば良い。
「神に代わり、剣を振るう…」
彼のような高潔さと強さを持っていれば私は左之助さんの隣に並び、一緒に戦えていたのでしょうか?と悩み、そう妄想を思い浮かべる。
しかし、私の見るべき場所は現実です。
高貴なる者の務め。
そんなものを抱いて戦える様な人間ではありませんし。なにより私には才能が無い。頑張っても一般人よりも低い筋力、伸びることの無い体力、私はどうしようもなく厄ネタそのものです。
────けれど。折れるのは嫌です。
好きな人と大切な人達を守る事は弱くても情けなくても出来る事だと思えるし。なにより、みんなが幸せになれる最高のハッピーエンドが好きなんです。
「……景、まだ起きてたのか?」
「左之助さん?」
ぎい、と部屋の扉を開けてリビングに入ってきた左之助さんに少しだけ驚きつつ、彼は着流しのまま私の腰掛けていたソファの隣に座り、静かに腕を組んでいる。
「思い詰めてるなら話し、聞くぜ?」
「……ありがとうございます。けど、大丈夫ですから左之助さ、ん、は?」
ソファに押し倒された。
なぜ?と首を傾げる私を見下ろす左之助さんの目は少し悲しみの感情が混ざり、ゆっくりと私の頬を指がなぞり、左之助さんの右手の親指が唇に触れる。
「頼むから本当の事を教えてくれ」
「…………左之助さん、私は左之助さんが大好きです。愛しているし、ずっと好きだと思います。だから、この事だけは伝えられないんです」
そう彼の頭を包み、抱き締める。
転生者の事は転生者で解決しないといけない。ドクトル・バタフライとアール・シュタインはそう話しているし。私もそうだと思ってしまった。