才賀正二とアンジェリーナさんの二人との束の間の生活も終わってしまったけれど。彼らに学んだ人形作りの技術は何処かで役立つ筈です。
しかし、人形を奪おうと考える人は多い様です。
ドクトル・バタフライ。彼も出会った頃はホムンクルス研究ではなく機巧人形や自動人形など錬金術方面の知識を蓄えた人間だった。
ホムンクルス変態後。今の立ち振舞いに磨きが掛かり、パワード一家と交流を深めつつ、より強固な協力関係を築き上げている。
その才覚は出会ってきた転生者の中でも随一と言える程です。バトルの才能は不破信二の方が上だけど。全ての技能を最高水準まで引き上げた。
───言わば
「景、あの人形もお前が作ったのか?」
「え?」
書斎の本棚に仕舞っていた白紙の冊子。今まで出会ったひみつ道具や人形、ホムンクルス、妖怪の事を記した「大百科」に「太郎丸」の製作方法を書き綴っていたとき、左之助さんの声が聴こえてきた。
私が作った懸糸傀儡は「太郎丸」だけ。他の人形を作った記憶は無いんですが?と首を傾げながら本を閉じ、本棚に仕舞って廊下を歩き、居間の向かう側、縁側の先に見える中庭に強い道化師が佇んでいた。
「────御初に御目に掛かる。私の名はアルレッキーノ、真夜中のサーカスの楽士を務める者。我らの事を知り尽くした人間、イトシキ・ケイという人間の事を訪ねてやって来た次第」
緩やかに、優雅に、悠然と、壮大に、片足を後ろに引いて軽く膝を曲げる所作。ボウ・アンド・スクレープの動きに思わず、私は目を見開く。
ゆっくりと深呼吸して、私もお辞儀を返す。
「初めまして、アルレッキーノ。私が貴方の探している人間の糸色景です。ご用件をお伺いする前に幾つかお願いがあります。どうか子供達に手出しする事は止めて頂けますか?」
「承知した。では、失礼する」
爪先の尖った靴を脱ぎ、軽やかに居間に入ってきた彼の動きに左之助さんは驚きつつ、私はひみつ道具「グルメン」を改良して作った茶葉を使用した紅茶と、グルメン製のケーキをアルレッキーノの前のテーブルに置く。
「私に食事は不要だ」
「警戒しなくても大丈夫ですよ。それは人形でも食事できるように作ったものですから」
そう伝えると僅かに右目の二重瞳が動き、静かにティーカップとソーサーを手に取ったアルレッキーノは口許に近付けた瞬間、また動きを止める。
「……成る程、味わうというのはこういうことか」
静かにアルレッキーノの目元が緩んだ。
一応、歓迎は出来そうですね。