紅茶とケーキを優雅に楽しみ、静かに食べ終えたアルレッキーノは綺麗な所作を崩すこと無くお皿にフォークを置いたものの、口許にクリームを着け、その事に気付いている様子もない。
「フフ、口許にクリームが着いていますよ?」
そうっとハンカチーフで拭き取ってあげると、彼の動きが止まると同時に歯車の軋む音が変わった。少し不思議に思いながら首を傾げる。
何か引っ掛かる物を食べさせたつもりはないけれど。アルレッキーノに興味を与える物を差し出した記憶もありませんね。多分、彼が海を渡るときに潮風を浴びた影響なのでしょうね。
「やわらかな影をまとい、そっと浮かぶ夜の空にひとつだけ。あなたの微笑みは、私の静けさへと光をそっと満たす。お前の微笑みは、夜を照らす月のようだ」
「えと、あ、ありがとうございます?」
微笑み。
思わず、その一言に納得してしまった。彼ら「真夜中のサーカス」はフランシーヌ人形の笑顔を見るために、既に百年以上の月日を
そこに私が笑い掛けてしまった。
本来、彼に微笑み掛ける相手は違うというのに、いつものようにしとりとひとえにするように微笑みをアルレッキーノに向けてしまった。
「へえ、人形にも景の笑顔が綺麗だって分かるヤツはいるみたいだな。お前、意外と人間臭いな」
「人間臭いとはなんだ」
「人間のように振る舞えてるって事だよ」
そう言いながら左之助さんは胡座を掻き、ちゃぶ台に頬杖を突いてアルレッキーノに言葉の意味を伝えると「そうか。私は人間臭いのか」と呟いた。
コミュニケーション能力が高過ぎます!
「では、サノスケ。私はフランシーヌ様に笑顔を贈りたい。どうすれば良い。どうすればフランシーヌ様に笑顔を御与えることが出来る。造物主様を求めるフランシーヌ様に何をしてやれる」
「簡単だ。ソイツをそのまま愛してやれ。敬わず、見下さず、人形だろうが何だろうが関係無い。上も下も蟠りなんざ無視して愛して愛して愛し続けろ」
「私の愛が足りないと言うのか」
「そうじゃねえ。昔、十年も前の話しになるがオレは景の人形と暮らしたことがある。ソイツは『愛して欲しい』と願いながらオレに尽くしてくれた。だから、オレはソイツを看取るときに景と同じぐらいに強く抱き締めた」
その言葉に辛くなるけど。
───けれど。同時に嬉しく思える。
どんなに醜く変わってもこの人だけは私の事を愛してくれるという事が心から分かるから、この人が大好きだと言えるんです。
「そのフランシーヌ様ってヤツが求める造物主とかいうヤツよりもデカい愛を与えてやれ。愛で埋めてやれば自然と笑顔は生まれるもんだ」
……な、なんだか、ドキドキしてきますね。