緋村剣心と雪代縁の最後の戦いは激しい剣戟の応酬を続け、背丈や武器の長さで劣っている緋村剣心の動きは次第に鈍り、それに加えて次々と飛天御剣流の技を潰され、打つ手が減っているのだ。
「どうした、抜刀斎ッ!!貴様の強さはこの程度じゃない!もっとだ、もっと本気を出さねばお前の仲間を切り裂き、鮫の餌にしてやろうか!」
「おぉおぉおおぉッ!!!させない、そんなことは絶対にさせない!」
そう言って立ち上がりながら逆刃刀を振るい、雪代縁の胴体に強烈な打撃を食らわせ、続けざまに「龍巻閃」から怒涛の三連戟を叩き込み、渾身の乱撃技「龍巣閃」を撃っていく。
それでも尚、血濡れた身体で復活する雪代縁に「アイツ、変だよ」と巻町さんは恐怖し、四乃森蒼紫の腕にしがみつき、怯えや恐れを纏った瞳を向ける。
私も彼女と同じように左之助さんの服を掴み、どちらが死んでもおかしくない程に凄まじく恐ろしい激闘を辛うじて見ることが出来ているだけ。
少し気を抜けば簡単に気を失う。
「…ハアッ…ハァ…ッ……」
「…カァ…ッ…!……」
二人とも立っているのが、やっとの状態だ。
「…ッ…縁、最後に聞きたい…あの硝子の中にいた巴をどうするつもりだ…」
「…どうも……しないッ……あんな紛い物でも姉さんの姿形をしているなら、今はただ安らかに何の憂いも哀しみも無く、眠り続けていてほしいだけだ…」
その言葉に私は驚いてしまった。
あれほど培養槽の開け方を聞いていたのに、今は雪代巴に成ろうとしている「ホムンクルス」の調整体を本心から案じている。
例えそれが偽物でも愛した人の面影を持つからこそ、雪代縁は緋村剣心に挑み、復讐鬼としてではなく自分自身の答えを得ようとしているのかも知れない。
「抜刀斎、この一撃で最後だ」
左手に倭刀を移し、逆手に構える。
それは雪代縁の最大の切り札たる虎伏絶刀勢を放つために行う最初の動作であり、そもそも「虎伏絶刀勢」その物が絶対的な自信と覚悟を込めた相手の一撃を躱さないと絶対に振るえない返しの絶技だ。
「嗚呼、これで最後だ」
逆刃刀を鞘に納め、静かに構える。
緋村剣心の放つ飛天御剣流の奥義であり、志々雄真実に最後の引導を渡した「天翔龍閃」の抜刀術を振るうために彼は腰を沈める。
刹那、緋村剣心の姿が消えると同時に雪代縁も動き、地に伏す虎が天を翔ける龍に牙を向く。
───だが、その動きを上回り、鋭く疾く緋村剣心の振るった抜刀術の一撃が倭刀を捉え、雪代縁の胴体に打撃の傷跡を刻み付ける。
「…終わったな…」
「武器を失った以上、ヤツに戦う手段はない」
「剣心!」
左之助さんの安堵した息と脱力に合わせて、張り詰めていた緊張感が途切れ、ほっと安心して私も吐息を溢し、仰向けに倒れ伏す雪代縁を見つめる。
神谷さんに続いて、みんなが緋村剣心のところに向かっていく中、私と左之助さんはまだ意識の残っている雪代縁の傍に近付き、彼の頭を膝に乗せるためにしゃがみ込んだ。
左之助さんは不服そうだけど。
後でしてあげるから我慢して下さいね。
「…なあ……姉さんが……笑ったんだ…」
「はい、笑いましたね」
「…姉さん…に……」
ゆっくりと気を失っていく彼を見据える。
「…………左之助さん、どうしましょう」
「どうかしたのか!?」
「漸く終わりだと思ったら腰が抜けて……」
「それならオレが運べば問題ないな」
そう言うと左之助さんは雪代縁の頭を膝から退かせて、私の事を抱き上げる。……これは、ひょっとしなくても怒っているのでは?
「さ、左之助さん、怒っちゃイヤです!」
「怒ってねえよ。安心しろって」
にっこりと普段の悪そうな雰囲気が消し飛びそうな満面の笑みを浮かべる左之助さんに焦り、神谷さんと巻町さん、高荷さんに助けを求めるけど。
そうっと視線を逸らされた。
と、友達なのに…!?