見えないから帰るに帰れない。
どうしたら、いいんでしょうね。
そう悩んでいると私の目の前に誰かが座り、ビクリと身体を震わせてしまう。見えないのは怖い。見えていても怖いですけど。
顔が見えないのはとても怖いです。
「糸色、お前の趣味嗜好を咎めるつもりはない。だが、あの様に異質な存在感を放つ相手に無防備な姿を晒し続けるのはどうかと思うぞ」
「その声は式尉さんですね。すみません」
眼鏡を掛けていないから分かりませんけど。
記憶に残っている音声と言葉遣いが合致するのは式尉だけですね。いえ、それより今日も私の事を護衛してくれていたのは彼だったんですね。
「左之助には伝えといてやるが、帰ったら大変な事になることだけは覚悟しておけよ。ああ、あとお頭と操の息子も随分と大きくなったんだよ」
「フフ、そうなんですか?ひとえも弟みたいに可愛がっていましたからね」
そんなことを話し合いながら笑っていたとき、ガシッと頭を掴まれ、手の感覚から左之助さんだと理解できるものの、怖くて後ろに振り返れません。
「景、またオレの知らねえところで変なヤツに絡まれたそうじゃねえか。えぇ?マジで倉の地下に閉じ込めて、足の腱を切ってやろうか?」
「ひぃんっ」
「ウ~ン。初めて会った頃は快活とした硬派な男だったんだが、惚れた女を閉じ込める陰湿な性格に変わるとは凄まじい溺愛っぷりだな」
「悪いな。式尉」
「気にするな。俺は俺達の役目を全うしているだけだ。それに糸色の周りに集まってきやがる変な奴らをブチのめすのは存外楽しいぞ」
「そうか。景、帰るぞ」
「お、お会計がまだです!」
「ああ、払っておいたぞ」
「(式尉さん、嬉しいですけど。違います!)」
私の事を担ぎ、歩き出す左之助さんに「降ろして下さい。みんな見てます」と言っても聞き入れてもらえず、ペチペチと彼の背中を叩くも無視される。
そんなに無視するなら私も怒ります、怒り……なにに対して怒れば良いんでしょうか。私が絡まれていたのは事実ですから、誰かに言えばいいんですかね。
しかし、見えないのは本当にイヤです。
「景、大人しくなったがどうした?」
「……左之助さん、みんなに見られて恥ずかしくないんですか?」
「惚れた女を抱いてるだけだ。気にするな」
そうやってイチイチ心臓に悪いことばかりしないでくださいっ。私の身体が持たなくなったら左之助さんのせいですからね!
「まあ、見られて恥ずかしいなら倉の地下に閉じ籠るのも手段のひとつなんじゃねえか?」
「それだけは絶対にイヤです」