「こいつが白面の者ねえ?」
「やめろ!こら!離せ!」
バタバタと小さな身体を動かして、高い高いの格好で左之助さんに抱っこされている巓さんは物凄く嫌がっている。やっぱり大妖怪の白面の者でも蛮竜で斬られたのはトラウマなようです。
「そういえばお妙さんはどうやってこの時代にやって来たんですか?蛮竜で時空を越えるのは一度きりだた以前に聴いていますけど」
「一回覚えれば使えるわよ。私は糸色妙だもの」
物凄い自信満々に答えるお妙さんの言葉に感心していると、半泣きの巓さんが「わ、我は大妖怪だぞぉ!」とフサフサとした可愛い尻尾を露にする。
白面の者の尻尾とは思えない柔らかさですね。
ずっと触っていたい感触です。
「妙、どうにかしろぉ……!」
「ハハハ、可愛がって貰えて良いんじゃない。お婆様にも抱っこしてもらえるわよ?」
「……糸色景、抱っこしろ」
「フフ、いいですよぉ♪︎」
左之助さんから巓さんを手渡してもらい、ゆっくりと彼女の背中を優しく撫でてあげる。ぎゅうっと私の着物を握って静かに嬉しそうに笑う声が耳元で聴こえる。
「良い子に育ってくださいねぇ…」
「分かっている」
「じゃあ、好き嫌いしちゃダメです」
「……野菜は嫌いだ」
「フフ、好き嫌いは?」
「が、がんばる」
「良い子です」
よしよしと頭を撫でてあげながら、お膝の上に座った巓さんは「……フン。仕方なくだ」と言いつつ、トタトタと歩いてお妙さんのお膝の上に座り直した。
「もう良いの?」
「……景の事はもう大丈夫だ。それより人になって分かったが、お前の身体に入っているソレは何だ。神仏の類いに呪われでもしたのか」
「あのチビの爺か!?」
「知らん。が、少なくとも糸色景の身体を蝕む何かを塞き止めているのもソレだ」
そう言うと不満そうに欠伸をこぼし、目尻を擦り始めた巓さんは、カクン、カクン、と頭を落とし掛け、睡魔に誘われて眠ってしまった。
「白面の者も人になったら可愛いもんだな」
「しとりとひとえが聴いたら怒っちゃいますよ?」
「そんときはもっと可愛がる」
自信満々に答える左之助さんに苦笑を浮かべつつ、真剣な表情を向けるお妙さんを見る。
「お婆様、私の従姉妹に類っていう子が居るんだけどさ。その類の子供、お婆様みたいに身体が弱いんだ。何か手助けできる道具か知識を貸して貰えない?」
「……分かりました。幾つか用意します、私の子供はみんな大丈夫ですから、絶対にとは言えないですけど。手助けする方法はあります」
私は眼鏡と『大百科』の二つを書斎から取ってきて、彼女に向かって差し出す。
「この眼鏡を掛ければ文字を読めます。本来、誰にも見せるつもりはないものですが、貴女から渡してあげてもらえますか?」
「ありがとう。助かるよ、お婆様」
「ん!ただいま!」
「ただいーま!」
お妙さんと話していたその時、神谷道場に行っていたしとりとひとえが元気良く帰ってきました。お風呂に行こうとしていた二人は、ピタリと歩みを止める。
「「赤ちゃんっ!!」」
「なっ、やめんか!?撫でるな!くっ、しとりとひとえが斯様に近付いてくるとは」
キャッキャッと楽しそうに笑って、しとりとひとえはお妙さんのお膝の上に座っている巓さんのことを優しく撫でて、頬っぺたを触ったりしています。
フフ、とっても可愛いですね。
「しとりお婆様、ひとえお婆様、すごい若いわね」
未来の二人はまだご存命なんですね。
長生きは、良いことです。