しとりの影の中に沈んだ九本の刀と電光丸、その個々に名前は存在しておらず、その特性や強さを授ける銘を刻んでいない状態です。
銘を与えてこそ真価を発揮する。
「しとり、刀を出して貰えますか?」
「ん!」
ずらりと並んだ九本の刀の一つを手に取り、ゆっくりと刀を引き抜いて、静かに刀身を見つめる。私の記憶に残っている刀と似ている。
幾つか名前も知っています。
しかし、しとりに教えて良いものなのでしょうか。名前を与えると力を増大させて、しとりを傷付けるかも知れません。そうなったら、とても怖いです。
「しとり、貴女は刀の名前を知りたいですか?」
「ん!わたしも呼びたい!」
「フフ、じゃあ、教えましょう」
広間の畳に並んだ刀の一振りをなぞる。
「刃渡り71cm。反りは浅く、鋒は大切先。茎は逆さ振袖。この妖刀の銘は
「にひる?」
本来は「どろろ」という作品に登場する妖刀なのですが、戦骨は好き勝手すぎるほど自分の知っている妖刀魔剣を灰刃坊や刀々斎様に打たせていたのでしょうね。
本当に悩ましいです。
「この妖刀は血を好み、とても危険な刀です」
「母様も危ないの?」
「……しとりは私に向けますか?」
「うぅん。向けない」
「それなら良いのです」
そう言って黒漆塗の刻鞘に似蛭を納刀して、しとりの近くに置いていきます。電光丸を含めて十本、妖刀の特性を理解すると陰陽五行説にも当てはまる。
似蛭の属性は水行。
魔物を封じた刀故、陰陽の性質は「陰」。
十干の並びは「
「母様、にひるって強い?」
「刀の良し悪しはお母さんには分からないですが、あの戦骨が使うほどの刀ですから、蛮竜には届かなくても中々の業物です」
「むふぅー!」
嬉しそうに似蛭を手に取ったしとりは優しく鞘に納まった似蛭の事を撫でて、影の中に沈める。似蛭の能力は言うなれば「吸血再生」─────。
斬った分だけ刀身を強く仕上げる。
蛮竜や鉄砕牙のように妖気を吸収する特性に似ているけれど。別種の能力でありながら人斬りに適してしまっているわけです。
「刀、抜く?」
「まだ抜いちゃダメです」
「……お前ら、さっきからオレとひとえがいないところで何やってるんだ?」
「ひーもほしい!」
「ひーちゃんの刀は持ってるでしょ!」
そう言ってしとりは私の贈った守り刀の懐剣を指差し、ひとえも身に付けているのに忘れていたのか。嬉しそうに「ひーのもあった!」と笑っています。
普通はお洋服や装飾品を好みそうなんですけどね。
【概要用語解説】
本作の単語や転生者、その親族を解説します。
【
全長73cm。
反りの浅い鋒大切先造り。
茎は逆さ振袖。
鞘は印籠刻鞘。
柄は掛け巻き。
拵えは打刀。
本来は「どろろ」に登場する妖刀。
戦骨の注文を受けて灰刃坊の拵えた妖刀であり、百鬼蝙蝠の牙を使って造った一振り。竜骨精と同じく自我を持つ。しかし、戦骨の兇気に耐えきれず、百鬼蝙蝠当人の自我は無くなっている。
・位列は業物
52工の一振り。