銀成市へ行こう 序
左之助さんと祝言を挙げ、そ、その、無事に初夜を終えたわけですが、こうして考えると左之助さんと出会ってからの二年に加えて、この半年以上の時間は濃厚すぎると私は静かに思う。
「……そういえば招待を受けていたような」
色々と立て込み過ぎていたため、危うく忘れそうになっていた銀成市で蝶野爆爵の話を聞きに行かないといけない事を思い出す。
ただ、左之助さんが私を一人で銀成市まで行くことを許してくれるとは思えない。でも、それだけ彼に愛されていて、それだけ心配させてしまったと考えると申し訳無い気持ちになる。
「よし、気づかれる前に準備にしよう」
「何を準備するんだ?」
「え?」
のっそりと左之助さんの寝巻きの解れを繕っていた私の隣に現れ、余りにも突然の出来事にビックリし過ぎて身体が硬直してしまう。
「招待がどうとか言ってたけどよ。また何処かに行くつもりならオレも着いて行くぞ。髑髏野郎のときはオレが居なかったからな、まだ他のヤツがお前を狙ってるかも知れねえからな」
「さ、流石に大丈夫ですよ」
そう言って裁縫の糸を切り、丁寧に折り畳んで箪笥の中に左之助さんの寝巻きを仕舞い、ゆっくりと背中に張り付いて私を抱き締める左之助さんの事を見上げる。
「私はもう糸色じゃなくて相楽ですから、名前で見つけるのは難しくなりますし。それに左之助さんには最初から着いてきて貰う予定でしたから」
「……なら、別に良いけどよ」
安堵の吐息を吐く左之助さんはいつものように喧嘩屋家業の一環……一環と言って良いのかは微妙なラインではあるけど。中入れ屋の人に仕事を受けに行ってしまう。
私は錦絵を売りに行くのは止め、商家の店先を利用して錦絵を初めとした絵巻物を販売する事にした。こうすれば左之助さんも安心できると神谷さん達に言われ、説得されたからですけどね。
それに左之助さんと祝言を挙げるときに貯金を使い、助けてくれた人達にお詫びと感謝の品々を送ったから少しだけ貯金が減ってしまった。
「おろ。今日も盛況でござるな」
「緋村さん、神谷さん、こんにちは」
「こんにちはでござる」
「うん。こんにちは」
魚釣りの帰りなのか。
のんびりと話す緋村剣心は逆刃刀を佩いておらず、代わりに彼の隣には神谷さんが一緒に肩を並べて、中睦まじく歩いている。
私達の祝言から神谷さん達も祝言の準備を始めているけど。基本的に緋村剣心は家事全般を請け負っており、もはや主夫と言える立場に落ち着いている。
流石に斎藤一や四乃森蒼紫等々に「お前はそれで良いのか、伝説の剣客が」と言われ、危機感はあるらしく。左之助さんと一緒に東京で起こる喧嘩やヤクザの抗争の仲裁を行っている。
みんなが幸せになって、笑顔が溢れる。
これからも良い時代になると嬉しいな。