来客の多かった日々も少しずつ収まりを迎え始め、ほうっと安堵する私達は妙さんに「赤べこの新築祝いするから今夜来てなあ」というお誘いを受け、しとりとひとえと個魔の方を連れていきます。
流石に家族とはいえ動物を食事処に連れていく訳にも行かず、三匹と影茶碗には家に残って持っています。一応、いつもよりご飯の量は多くしていますけど。
「二階建てになってますね」
「新築じゃなくて増築の間違いだな」
そう左之助さんと話しながら暖簾を潜り抜けた瞬間、スッと右手を天に向けて掲げる背中が見えた。
「お婆ちゃんが言っていた。食事は一期一会、毎回毎回を大事にしろ。私の手料理を食える機会など早々にあり得ない事だ。好きに注文すると良い」
「お、おう、姉ちゃん変わってるな」
「変わっているのは私ではなく世界だ。世界の中心は私、世界は糸色佳という女を受け止める準備を整える舞台だ。そして、いらっしゃいませだ。お婆ちゃん」
「こ、こんばんは」
喫茶店アミーゴの事を考えると、もしやとは思いましたけど。もしやとは思いましたけれど。こんなに早くに来るなんて想定外です。
「お爺ちゃんと話すのは二回目だな。久しぶりの糸色佳だ。存分に頭を撫でるなり褒めるなりすると良いぞ。お婆ちゃんにしているようにな」
「すげえなコイツ。上から甘えてやがる」
「佳ちゃん、料理頼めるやろかぁ」
「任せてくれ。直ぐに始めよう」
妙さんに呼ばれて厨房に向かった佳さんの事を見送りつつ、燕さんと明神君に案内して貰い、緋村剣心と薫さん、剣路君の集まったお座敷の隣に座る。
「ん!けんちゃん!」
「しとり、となり座るか?」
「左之も呼ばれたでござるか」
「まあな。ツケが利かなくなってきたとか明日郎のヤツが文句言ってたんだが、妙のヤツまだツケを許してるのか?」
「左之助の言える言葉じゃないわね」
ノーコメントですね。そこをつつくと大変な事になりますし。それに佳さんが此処にいる理由も聴いておかないといませんね。
「お婆ちゃん、そう固くなる必要はない。私が此処に居るのは必然だ。ゲンジロウの喫茶店も来ていただろう。あの店に私も入店していただけだ」
「えっ」
「勿論、帰る手段はある。アイツがこの私を並行世界なんかに逃がす筈がないからな」
そう言うと次々と牛鍋を用意していく佳さんの事を見つめつつ、ウソを言っているようには見えないので安心しました。ですが、私達の子供が危険な事に巻き込まれる頻度の多さに少し泣きそうです。