「ワハハハ!ワシを捕まえようなど百年早いぞ!」
そう言って人混みの中を避けて、大きな風呂敷に女性物の褌だったり下着だったりを詰めて、走っている八宝斎は私に気付いたのか。
追っ手に向かって風呂敷を投げ付け、にこやかに私に向かって駆け寄ってきました。しかし、ひとえのビンタによって八宝斎は吹き飛ばされた。
「かーさまに近づくな!」
「ひとえ、今のはやり過ぎなんじゃ」
「はっちゃんは、こんなので死なない!」
ひとえはプンプンと怒りながら追っ手に踏みつけられ、ボコボコと殴られている八宝斎に近づき、何かを伝えてお説教していますね。
年下にお説教を受けるのは辛いですよね。
分かります。私も何度か明神君に怒られた記憶がありますから、本当に申し訳ない気持ちになりますし、とても悲しい気持ちになります。
「へへへ、ひとえちゃんはひどいんじゃ」
「ハッピー君もお痛しちゃ?」
「ウッ、い、景殿…!」
「分かりましたね?」
ボロボロの彼の身体の土汚れを払ってあげ、顔の汚れをハンカチーフで拭いてあげる。顔が赤くなっているけど、なにかあったのでしょうか?
「わ、ワシは帰る!!」
「あ、うん、またね?」
「次はぱんちするからね!」
トタトタと逃げていく八宝斎の変わった態度に首を傾げていると「初恋が拗れたな」だとか「糸色先生はすげえ美人だからな」だとか「あの坊主は良い趣味してやがる」なんていう言葉が聴こえてきた。
初恋を拗らせるって、自分の子供と変わらない男の子が私みたいな三十路手前の女を好きになるわけがないじゃないですか。
そもそも悪いことしちゃダメだと注意しているだけで、初恋を拗らせるわけがないのです。
「ひとえのほうが初恋泥棒ですもんね」
「どろぼーちがうよ?」
「フフ、そうですね」
操さんと四乃森蒼紫の息子の初恋を奪い、燕さんと明神君の息子の初恋を奪っているのに良く言えます。いえ、悪いことではないんですけど。
このままだと旭さんのようにありますね。
旭さん、根負けして二人のお嫁さんになったわけですけど。此方の場合は内縁の妻という立場になるのでしょうか。もう子供もいるのだから、どちらかが折れて籍を入れてしまえば良いんです。
「ひとえはどの様に成長するのか楽しみですね」
「ん!!かーさまもねーさまもとーさまも守るつよーいのになる!ひーはいっぱいいっぱい仲良くしたいから頑張る!!」
「フフ、応援していますね♪︎」
「あい!」
嬉しそうに笑ったひとえの頭を優しく撫でて上げ、また下着泥棒を始めた八宝斎に苦笑を浮かべる。