新刊の要望を受けることが増えてしまった。
「うしおととら」や「からくりサーカス」のように勇気を与える漫画を望んでいるのでしょうが、ドクトル・バタフライに聴かなければいけない。
「(正直、あの『双亡亭壊すべし』を読める状態で描いてみたいという気持ちはあります。しかし、しかしです、描いたら絶対に侵略者はやって来ます)」
そうなったら対処できるのは強靭な精神の持ち主だけ、未来の子供達は無事に過ごせるのかも分かりません。そんなこんなで「双亡亭壊すべし」は蔵書の奥に、厳重に取り囲み、押さえています。
いっそのこと有終の美を飾る思いで、大量の世界を繋ぎ合わせてしまいましょうか。まあ、そんなこと出来る度胸はありませんけど。
「御免下さい。糸色先生はご在宅でしょうか」
正門の方から聴こえる声に気付き、書斎を出ると廊下に集まっていたドンと親分、ボスも一緒に玄関まで着いて来てくれ。カラカラと音を立てて横に動く戸を開けると、見知らぬ青年が立っていた。
「あのもう相楽なのですが、何のご用件ですか?」
「貴女に呼ばれたものです」
「……えと、どういむぼっ!?」
「まあまあ、そう言わずに」
口許を捕まれ、慌てて青年の手を掴むも万力のように絞まり続ける指の力にミシミシと頭蓋骨が悲鳴を上げていた刹那、ドンの牙が青年の首に深々と突き刺さった。
────けれど。血は出てこない。
「ゲホッ…ゲホッ…!」
「邪魔なのは犬と猫と、狸か」
突然の事に心臓の鼓動が痛い、心臓に負荷を掛けすぎてしまったと床に飛び散る血と、僅かな胃液の混ざったイヤな臭いがツンと鼻を突く。
「あなた、なにもの、ですか…」
「たった一人きりの侵略者だよ。この身体はたまたま近くに居ただけのヤツさ。まあ、他の仲間を呼び出すのに必要な門はまだ無いみたいだけど」
門?仲間?
……ッ、まさか左之助さんに見せた「双亡亭壊すべし」の切れ端から此方を認知してしまった?でも、どうして今更やって来たの?
すでに絵はドクトル・バタフライが破り捨てて、無かったことにしたはずです。いえ、左之助さんに読んで貰ったから、一瞬だけ繋がってしまったんですね。
私の、過ちです。
「……何故、身体に入り込めない?」
「え?」
「おかしい。何故だ?さっき飲ませた筈なのに、どうして僕は君の身体に乗り移ることが出来ない」
サンピタラカムイ様の神酒の加護のおかげでしょうが、私の身体には『火』のモヂカラも宿っている。二つの浄化の力が。
私の身体を守ってくれているのでしょうね。