「………………?」
ぼんやりと歪んだ視界に目元に触れる。眼鏡がない、あの後どうなったんだろうと身体を起こそうとした瞬間、ボヤける人影が見えた。
何もかもがモヤに見えるけど。
そこに座っている人が誰なのかは直ぐに分かりました。ゆっくりと手を伸ばして、彼の顔に触れ、少しお髭の伸びた感覚にクスクスと笑ってしまう。
「おはようございます、左之助さん」
「おはようじゃねえよ。景、お前は一月も目を覚まさなかったんだぞ?」
一月。
一ヶ月も昏睡状態で眠っていた事実に驚きよりも納得してしまった。確かに、あれだけの事をしてしまったのなら当然の結果です。
むしろ一ヶ月で済んだだけ、良かった……いえ、そんなことを考えるのは悪いことですね。でも、一先ずは安心して大丈夫なんですよね?
「…よく分からねえ水の中に漬け込みやがったオッサンをぶん殴りてえが、お前の身体を治したのはオッサンだ。あとで礼を言わねえとな」
「そう、ですねえ」
確かに、お礼は大事です。
眼鏡を掛けて貰い、寝台をおりようとした瞬間、カクンと身体が床にへたり込んでしまった。
「大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です、その、えっとですね。一月も動かなかったから筋肉が衰えてしまっているみたいで、お恥ずかしながら抱っこをしてもらえますか?」
「……ク、ククッ…!」
「わ、笑わないでくだひゃあっ?!」
クツクツと私の醜態を笑った左之助さんに抗議しようと見上げた瞬間、あっさりと私の身体を抱き上げてくれた彼の笑顔はさっきまで見えていた後悔の念を完全に消し去っています。
こちらも良かったということですね。
お姫様抱っこに見えるけど。
赤ちゃんを抱き締めるように私の事を抱き締める左之助さんの身体は少し細くなったように……ううん、細くなっているし、血色も悪い。
また、ご迷惑を掛けてしまった。
「景、生きててくれて。ありがとうな」
「……はい、約束しましたから」
「おう。約束したな」
グリグリと顔を押し付けてくる左之助さんのお髭が擽ったくて顔を逸らす。しとりとひとえにも早く会いたいけど、薫さんが見てくれているのでしょうか。
もしそうならお礼をしないとです。
そう思いながら、扉を開ける左之助さんの首に抱きつき、落ちないように身体を支える。ゆっくりと開かれた扉の向こう側に立っているのは、ドクトル・バタフライと佳さんの二人だった。
「お婆ちゃん、すまない。ツカサの作戦に気付けず、お婆ちゃんを危険に晒してしまった」
「フフ、大丈夫ですよ」
ちゃんと、私は生きていますから。