楯敷君は、予め佳さんに異なる未来を推察させ、そちらにゴートオルフェノクを配置することによって、その推察を次に起こる事件だと確信の域まで押し上げるという手札を使ったわけです。
私でも普通に嵌まる作戦ですね。
「お爺ちゃんもすまなかった」
「いや、オレは気にしてねえよ。佳は自分の家族を助けようとしただけだ。良くやった、偉いぞ」
そう言うと左之助さんは佳さんの頭をワシャワシャと撫でて、嬉しそうに目を細める。私の旦那さまは玄孫より更に先の子孫にも大人気です。
私は子供達に誇れる母親でしょうか。
いえ、そんなことを考える必要はない。
「しかし、糸色君の容態は極めて危険な状態だ。今後、遠出や仕事のために外出するのは控えてほしい。筋肉を取り戻すトレーニングもそうだが、先ずは車椅子を使って移動する方法を学ぼう」
「車椅子、ですか?」
「うむ、私の作った特注品だ」
それは、信用できるのでしょうかと首を傾げ、苦笑いを浮かべながら運ばれてきた車椅子に座らせてもらい、転倒防止用のベルトを身に付ける。
座り心地は、とても良好です。
「ここを掴んで押せば良い」
「ゆっくりですよ?」「ゆっくりだな」
私は後ろに首だけを動かして、振り返って左之助さんにそう伝えると車椅子は動き始める。ゆっくりと軋む音も聞こえず、安全な動きが出来ています。
「これなら、景と何処でも行けるな」
「フフ、そうですね。でも、ちゃんと歩けるように頑張るので応援して下さいね?」
「無理に歩こうとしなくても良いぞ」
「お母様とお父様にいただいた立派な足を持っているのに、歩みを止めるなんてダメです。それに、私は左之助さんと一緒に歩いて生きたいですから……」
「お前は本当に良い女だな」
「フフ、あなたの妻ですから」
そう話しながら長い廊下の角までやってきた私達は方向転換し、ゆっくりとドクトル・バタフライと佳さんの見えない死角に入り込んでいく。
が、すぐに車椅子は止まった。
「なあ、景」
「なんですか?」
「このまま……いや、やっぱり何でもねえ」
「『このまま逃げても良いんだぞ』と言いたいのなら不可能です。楯敷君は未来の人間ですから、私達の事をよく知っている筈です」
次は、逃げられない。
おそらく楯敷君の転生した『仮面ライダーディケイド』も終盤に差し掛かっている筈です。左之助さんにも最後のひと頑張りをお願いすることになりますけど。
きっと、左之助さんは大丈夫です。
みんなで生きていけるように頑張りましょうね。