家に帰ってきてから一週間ほど。
しとりとひとえの手助けを借りて、壁に手をつきながら歩行のトレーニングを繰り返す。ギシギシと筋肉の軋む音が聞こえるかと思うぐらいです。
ゆっくりと動き、ゆっくりと一歩ずつ歩く。
「ひぃ、ひぃんっ…!」
「ん!母様、頑張って偉い!」
「かーさま、えらい!」
二人の声援に応えるためにも頑張り、歩けば歩くほど歩き方を思い出していく。固まっていた筋肉も少しずつ、本当に少しずつ解れ、動けるようになります。
その様を静かに眺める左之助さんの視線を感じつつ、呼吸を整えて歩く。
「きょ、今日はここまでにしておきます」
そう言ってしとりとひとえに言えば怪我しないように身体を支えながら居間の方に連れていってくれ。そのまま左之助さんに差し出されました。
なぜ?
「今日も頑張ってて偉いぞ、景」
「ありがとう、ございます?」
私の腰に腕を回す左之助さんに戸惑いつつ、逃げたり離れたり出来る訳ではありませんから、彼の腰を抱き締める腕を受け入れる。
ほんの少しだけ怖いですけど。
「ひーちゃん、あそぼ?」
「あい!」
「え?あの、しとりさーん?」
いきなり置いていかれたことに戸惑う。
このままだとお母さんはお父さんに酷いことをされるかもしれませんよ。良いんですか?しとり?ひとえ?……ダメですね、お外に行っていします。
「景」
「は、はい」
「そんなに怯えなくても食わねえよ。いや、このまま食って確かめても構わねえんだが」
悩んだように唸る左之助さんに私も困惑する。まず、せめて主語を加えてほしいです。そういうもながないと分かりにくいさらね。
────とは言え、です。
左之助さんが悩んでしまうほどご迷惑をお掛けしてしまったのは事実です。どうやって償えば良いのかを考えなければいけませんね。
しかし、いきなり言っていいものでしょうか。
「景、十年だ。十年、オレはお前と一緒に生きているのに、お前の腹の底まで見たことがねえ。いつも、寸でのところでお前は止めに来やがる。……お前は、オレに何を隠しているんだ」
切実な、あまりにも切実な問いかけに私は言葉を開きそうになる。けど、わたしやドクトル・バタフライ、ススハムの事を伝えることは出来ない。
「ねえ、左之助さん」
「……なんだ」
「この世界には激動の分岐点に成り得る隠された歴史が幾つも眠っているんです。ひっそりと……けれど。実在する秘密の歴史です。私やドクトル・バタフライは『特異点』のように、その秘密の歴史に生まれたんです」
「それが、秘密か?」
「いいえ、秘密なんてありません。手の込んだ料理ほど不味い。どんなに真実を隠そうとしても隠し切れるものじゃないんです。私は、貴方にウソを言いたくない」
ただ、それだけです。