「迎えに来たぞ!」
「お坊っちゃま、相手が悪うございます。やめましょう、糸色家を相手にするのは大変で」
「うるさい!」
やいのやいのと我が家の前で騒ぐ声に釣られ、戸を開けると先日の男の子が居ました。タコの家紋。この子、面堂家の人間だったんですね。
そう思いながらも私の後ろに控えてくれる左之助さんにお礼を言いつつ、こういうときこそハッキリと大人らしく断るべきだと思うのです。
「僕と結婚しよう!」
「お断りします。私の好みは左之助さんだけなので、君と結婚することは出来ません」
「そういうわけだ。帰れ」
「くっ。僕は諦めないぞ!」
そこは諦めましょう。
私がそう言おうとしたら馬車に乗り込み、早々に帰ってしまいました。やっぱり、男の人は誰かの大切な人を奪い去ることが好きなのかな?
かなり嫌いですね、本当に。
左之助さんはそんなことしないから安心です。まあ、私が少し男の人と世間話をしただけで……っ、コホン、そういうことを言いたいのではなくてですね。
兎に角、本当に悩ましいです。好きな人を襲うのは悪いことだと習わないのでしょうか。女学校、しとりとひとえを通わせるのも良いですね。
「景、面倒臭いヤツに絡まれ過ぎじゃねえか?」
「えと、あはは……」
「誤魔化すときの笑い方だろ、いい加減覚えたぞ」
「うっ、その、ごめんなさい」
「怒ってる訳じゃねえよ」
「え?ンッ……いきなり何ですか?」
私の身体を抱き締める左之助さん。体格差がありすぎて、私は、彼の分厚く六つに割れた服直筋のあるお腹に顔を当ててしまう。
「この前、恵に聞いた。もう無理なのか?」
その呟きにビクリと身体を強ばらせ、不安に思いながらもゆっくりと彼を見上げてしまう。分かっています、これはもう変えられない運命的です。
「ねえ、左之助さん」
「なんだ?」
「私は、貴方の腕の中が良いです」
私は、
最後まで一緒に居たいですけど。それは叶いそうにありませんから、せめて最期の瞬間は好きな人の腕の中に包まれていたいです。
あなたに愛して貰えた人生は全て愛しい。
可愛くて大切な子供も二人できて、その二人も大きく素敵な女の子になっていきます。好きな人に、愛し子に、お友達に囲まれた幸せな人生です。
「景、お前は地獄か天国か分からねえが、ちいっとばかし遅れるが待っててくれるか?」
「フフ、お待ちしていますよ。もしも次の人生がまたあるのなら、見つけてくださいね」
「ああ、絶対に見つけてやる」
甲乙つけがたいですねえ。