ガラガラ、ガラガラ、と。
お店の前を通りすぎていくと思っていた馬車の音は止み、馬車の小窓を開けて、私の事を見下ろす視線にビクリと身体を強張らせてしまう。
山県有朋。
明治政府の重鎮。陸軍卿。
その影武者の眼差しは酷く濁っていて、とても恐ろしく危険な存在だと理解してしまう。分かっている。もうすぐ日清戦争の開戦────。
日本軍のために私の知識と発明品に目を付け、あと四年という短すぎる歳月を割いて、準備を進める山県卿にとって私は絶対に確保しておきたい人間です。
そして、山県卿は兵器に転じる事の出来る道具の有無を密かに調べているという話しは御庭番衆、剣客兵器、忍風館、迅雷義塾の四派閥から受けている。
剣客兵器の方々は日清戦争に出向き、日本の群雄達と共に戦場を駆け抜ける準備を進め、すでにお父様の了承を得ているそうです。
「糸色、君の言い分は定まったかね」
「……定まりませんよ、最後まで」
すでに「物語」の歴史は混ざり合い、不確定要素で溢れ返っています。日清戦争に、私なんかが介入できるとは思えません。
山県卿の最も欲しがっているモノは、十中八九糸色機巧軍の足軽殺駆でしょうね。統括する侍大将の唐倶利武者はまだメンテナンス中ですし。
何より彼らが分解や破壊を行わないという保証もない。絶対に帰ってくると保証できない戦争に、大事な家族を行かせたいと思う人はいません。
「日本を救うために力を貸してくれ」
その言葉の重みは憂鬱です。
一介の物書きに望むものではありません。……ですが、手伝える事は手伝ってあげたい。見ず知らずの他人だからといって、死んでしまったら元も子もない。
「オッサン、あんまりオレの女房を虐めるのはやめてくれ。ずっとそのことで悩んでるんだ」
私の頭に大きな手が乗り、くしゃりと一撫ですると聞き慣れた大好きな人の声が聞こえた。左之助さん、いつもいつもご迷惑を掛けて、申し訳無いです。
それに、あまりにも稚拙な考えですが清国にも転生者はいます。以前、行ったときには「闘龍極意書」を持った男の人が、仙人になっていましたし。
いわゆる、ラーマやヨーガの呼吸法の延長戦に於ける老化の低速でしょうけど。あの能力を使える人が他にも居たら、大変な事になっています。
それだけ危険なことが起こりやすい。
「相楽左之助、君に徴兵を降しても良いのだぞ?」
「ま、待って下さい!?」
左之助さんを日清戦争に連れていくことを直接的に告げる山県卿に向かって叫んでしまう。彼を連れていかれたら、私は、どうしたらいいのですか?