あと四年後────。
ううん、「あと」じゃない。
「もう」四年しか残っていない。山県卿の日本を守るために機巧人形を使用して、清国と戦う兵隊に加えようという思案は当然の帰結です。
戦えば疲弊する人間と違って、人形を使えば何万と戦力を補える上、不要と思えば自由に使い捨ての道具にしてしまえる訳です。
恐ろしく現実的な考え方だ。
「景、逃げたかったら言えよ」
逃げる。
その言葉にビクリと身体は震えてしまう。逃げたい。私はもうすぐ死ぬかも知れないのに、こんなことを頼まれるなんて想像も……いえ、山県卿や大久保卿と出会った時点で、こうなることはわかっていました。
未来の子供達のために出来る事をする。
「左之助さん、私は弱い女ですっ、頼まれたのは私だけなのに、未来に生まれる子供のためだと、誰かを助けるためだと、浅ましい言い訳ばかり…!」
死にたくない。
殺したくない。
何も怖いことに巻き込まれたくない。私が亡くなったら今度はしとりとひとえに彼らの矛先が向くかも知れない。イヤだ。イヤです。
私の大事な子供達に非道な事を押し付けないで、醜く浅ましい誰かを犠牲に生きるのは私だけです。しとりもひとえも綺麗なままで生きて欲しい。
「ッ、ゲホッ!、ごほっ、ゲホッ…!」
「落ち着け、大丈夫だ」
私の事を抱き締めてくれる左之助さんに身体を預ける私の口から掠れた呼吸音が鳴り、いやに大きく部屋に響いている。
私に出来ることなんて、もう何も無いんです……。
好きな人と余生を過ごしたい。そのために頑張ってきた筈なのに、日清戦争なんて私は関わりたくなんかない。私は、普通に生きていたいんです。
「ごめんね、ごめんっ、ね…けほっ…」
「謝らなくて良い。お前が悪い訳じゃねえんだ。落ち着いて、ゆっくりと深呼吸していけ」
優しく私の背中を擦ってくれる左之助さんの着物に飛んだ自分の血を見て、悲しさと申し訳無さに苛まれ、彼の胸に顔を押し付けてしまう。
どうしたらいいの?
いいえ、答えは分かりきっている。
手を貸してしまえば良いんです。そうすれば悩まなくて済むかも知れない。人を殺す、術を、教える。怖い、怖い、怖い、ッ……だけど。
それでも生きるために、覚悟を決めないといけない。戦えないから、弱いから、ずっと守られていた私が、今度はみんなのために頑張る番なんです。
「左之助さん、私を見捨てませんよね?」
そう言って、私は彼にすがり付いてしまう。
結局、一人にはなれない。
孤独になることも出来ないんです。