長谷川悪太郎(本人か不明)にお団子をあげて、二日程で信州に辿り着いてしまった。人間の体力を超越している左之助さんだから出来る事ではあるけど。
流石に彼の底無しの体力に驚き、帰ったら毎晩の如く……コホン、何だか左之助さんと夫婦になってから破廉恥な事に余り抵抗感が無くなってきた気がする。
ちょっと嫌かもしれない。
「随分と様変わりしてやがんな」
「そうなんですか?」
「嗚呼、ガキの頃はもっと寂れてた」
そう嬉しそうに話す左之助さんと並んでガヤガヤと賑わう街道沿いの宿場町を歩きつつ、宿屋を兼任する酒処を見つけ、其処に泊まろうという話になる。
「見ない顔だね、いらっしゃい」
「ちょいとな。二人で一泊か二泊頼めるか」
「構わないよ」
穏やかで人の良さそうな店主のおじさんと話す左之助さんを眺めながらお座敷に腰掛け、草履の結びを緩めて、左之助さんに持って貰っていた荷物を受け取る。
左之助さんはおじさんの持ってきてくれた桶で足の汚れを洗っているので、私も同じように足袋を脱ぎ、少し冷たい水で足の汚れを洗い落とす。
意外と良い経験になるかも?
「決まったら呼んでくんな」
「おう。景、何か食いてえのあるか?」
「お蕎麦が食べたいです」
「じいさん、天ぷら二つ頼む」
そう言うと左之助さんは対面に座るのかと思ったら長机を動かして、私の太股の上に頭を乗せてきた。ここまで来るのに二十回以上は背負って貰ったため、私は左之助さんの頭を撫でながら「ご苦労様です」と伝える。
こうしていると安心できるのは私の絶望しやすい性格が少しずつ改善されているからなのかな?なんて思ってみたりするものの。左之助さんがいなかったら、ずっと不安を抱いてしまうのも否定できない事実だ。
「……ねえ、左之助さん。私は自分で思っている以上に左之助さんが好きみたいです」
「知ってる。オレも好きだぜ」
「フフ、それなら相思相愛ですね」
こんな他愛ない話でも左之助さんに愛して貰っていると聞けるだけで胸の奥が温かくなる。このまま仲良く生きていけたら良いな。
「……チッ、外が騒がしいな。ちと見てくる」
「気を付けて下さいね?」
「おう。直ぐに済ませてくらぁ」
左之助さんは少し怒ったように舌打ちをしながら靴を履いて騒がしくなってきた外の様子を見に行った次の瞬間、物凄い勢いで何かを殴り付ける音が聴こえてきた。
左之助さん、また喧嘩しているのね。
「アンタの兄貴、ありゃあ強えなあ」
「おじさん、あの人は夫です♪︎」
「おっ、こりゃまた失礼したね!」
楽しそうに笑って厨房に戻っていくおじさんを見送りながら「……ズズッ…」と急須で湯呑みに注いだ温かな緑茶を飲み、左之助さんの楽しそうに笑い声を楽しむ。
でも、あれって喧嘩してるのよね。