ドクトル・バタフライとの会話を終えて、また自分の研究所へと戻っていく彼の背中を見送り、私もゆっくりと居間の畳に倒れ、寝転ぶ。
しとりとひとえ、左之助さんも自分のやりたいことのために外出し、頑張っている。私も絵を描いていたいけれど。限定的な絵ばかりです。
躍動を与えれば絵は動き、静止を科せば絵は止まり、人の人智を越えた能力というものは、その人のやりたいことや希望を軽々と消してしまう。
それだけは、本当に辛い。
「左之、お主に借りていた将棋盤を返しに、おろ?」
「あ、す、すみません…はしたないところを」
「何の何の。糸色殿はいつも気を張り詰めているでござるから、そうして気の抜けた表情や態度を取っているところを見るのは安心できるでござるよ」
勝手口を開けて庭に入ってきた緋村剣心に驚き、慌てて姿勢を正すも気にしなくて良いと言われ、少し身体の向きを崩し、壁にもたれる。
ほんのちょっとだけ、です。
「糸色殿は将棋を打てるでござるか?」
「一応、お祖父様の仕事は棋士でしたから」
「なんと!」
そう言うとワクワクとしたように将棋盤を縁側に置き、いそいそと楽しげに駒を並べる彼に戸惑い、私を手招きする緋村剣心に誘われ、近づく。
昔のように怖がることはないけれど。
どうしても緋村剣心は怖い。
「(けど。未来の知識に加えて、最適解を出す知識もあるので将棋や囲碁は苦手なんですよね)」
明治時代の棋譜は前世で何度も見ていますし。
雑食趣味も功を結ぶこともあるんです。まあ、そのせいでお祖父様は「おぴゃあ」とか「ワシの孫、強すぎんかのう」とか変なことを言っていましたね。
「王手」「待った」
サッと差し出される左手に私は首を傾げる。
「? ここで飛車を取れば終わりですよ?」
「ぬっ、ぬうぅ…!」
「角は貰いますね」
「ぬうぅぅ!」
「歩も貰いますね」
「憤怒ぅ…!」
「王手」
「お主、悪辣すぎるぞ!?」
「……人を黒幕だ何だと言うからです」
私のどこが黒幕なのかと本当に聞きたい。
こんなに華奢な身体で本当に貴方に恐れられるような悪人になれると本気で思っていたのかを聞きたい。いえ、まあ、知っているんですけど。
「……拙者は今でもお主によからぬ影を見る。初めて会ったとき、怯える顔も知っている。……拙者は、糸色殿の親類を斬ったのでござろう」
「え?」
「縁や志々雄、観柳、物の怪さえもお主の事を求めることばかり。糸色殿はこの世に在っては無いものを抱えている。そう思っただけでござるよ」
すごい、ちょっと当たっています!