ギィ・クリストフ・レッシュの診察を受けたものの、心肺機能の低下と腫瘍関連は変わりませんでした。そもそも心臓をそっくりそのまま作って移植したところで延命は不可能です。
緩やかに待つだけ。
私に出来ることはもう未来の子供達の幸せを願うことですし。無理に生きようとは思えない。醜く生き残るより綺麗なまま左之助さんに看取ってほしい。
あわよくば、ずっと想って欲しい。
後妻を迎えてもいいです。
しかし、しとりとひとえを大切に思ってくれる人と結婚して欲しい。それが無理なら、せめて幸せに人生を完遂してくれるだけで構いません。
「ルシールさんは長生きなんですよね」
「そうさね。とうに百は越えたところさ」
「バケモノじゃねえか」
「左之助さん、失礼ですよ」
ペチペチと彼の手を叩く。でも、彼はちゃぶ台を挟んで向こう側に座っているルシール・ベルヌイユを見つめるばかりで、此方を向いてくれない。
そこまで警戒しなくて大丈夫ですよ。
「夕食、食べていきますか?」
「お言葉に甘えさせて貰おうかね」
「一応、フランス料理も作れますけど」
「いや、日本の料理にしておくれ」
「フフ、分かりました」
ルシール・ベルヌイユの言葉を聞き、台所に向かう途中、ギィ・クリストフ・レッシュの視線がまた私に向いていることに気づきました。
私は、あまり似ていないと思いますけど。
────さて、何を作りましょうか。
「我が家は食材が充実ですからねえ」
独り言を呟きつつ、割烹着を着て、三角巾を頭を巻いて、手を洗って、お米を洗って、比古清十郎に作って貰った土鍋を氷室に仕舞っていた鰤を取り出し、包丁を使って手早く切り分ける。
左之助さん、貰うのは良いんですけど。
生魚の置場所って困るんですよね。
和紙などで軽く水気を切った鰤の切り身をフライパンに並べて、中火で焼き目を付いたら、鰤の切り身にみりん、しょうゆ、酒、砂糖のたれをフライパンに入れ、煮汁を作りつつ、その間に氷室に二、三日寝かせていた柚子と生姜で味付けした大根を取り出して、味見をする。
うん、染みていますね。
お玉を使って、鰤の切り身にタレを掛けるように絡ませる。続けるように小松菜と玉葱を切って、鰹節の出汁と水に赤味噌を加えたお味噌汁の味見を近づいてきていたひとえにお願いする。
「美味しいですか?」
「おいしい!」
気泡を出す土鍋の蓋を開け、炊けた玄米と白米に麦米を混ぜた簡易的な雑穀米を米櫃に移し、お味噌汁の鍋、おかず、飲み物をしとりとひとえに手伝って貰い、居間の方に運びます。
ふたりのお口に合うと良いんですけど。