東谷ご家族に惜しまれながらも私と左之助さんは宿場町で借りている宿屋に戻り、私は行水桶を借りて身を清める間、左之助さんは二階の窓枠に座り、のんびりと夜風を浴びている。
「……景、野暮用が出来た」
「え?左之助さん、何処に……」
ニヤリと新しい楽しみを見つけた様な笑みを浮かべて部屋の外に出ていった左之助さんの背中に語り掛けている途中で、彼は階段を駆け降りていき、宿屋の外に飛び出していく。
また、喧嘩かしら?と思いながら行水桶を出て、手拭いを使って身体を滴る水を拭う。旅費を押さえるために歩きを選んだけれど。
ほとんど背負われて……あっ、埼玉県で蝶野爆爵に会うのを忘れて、そのまま私と左之助さんの実家がある長野県まで来てしまった。
帰るときに寄れば大丈夫よね?
髪の毛を伝う水滴を留めるため、手拭いをターバンのように巻き付け、和紙と炭を削って作った鉛筆を手にとって夜空の星の光を頼りに宿場町の真ん中で喧嘩している左之助さん達の姿を描く。
本当なら筆を使いたいけど。
手荷物が増えるからと仕方なく炭の鉛筆を使っている。まあ、こっちのほうが前世に近いから絵を描きやすくて手は馴染むのは事実ではある。
「少しは話を聞きやがれ、喧嘩屋ァ!!」
「馬鹿野郎、喧嘩の最中に話せるかよ!」
「ぐぬおぉっ!」
怒涛の如く降り注ぐ張り手の乱れ撃ちを的確に力任せの動きで捌き、弾き、往なし、一瞬の隙も見逃さずに反撃の乱打を叩き込んでいく左之助さんの圧巻の強さに惚れ惚れしてしまう。
「あの人は私の夫なんですよ!」という大々的に左之助さんの凛々しくてカッコいいところを吹聴してしまいたくなる気持ちを押さえながら、私は激しく猛々しく吠える彼の姿を和紙に描き記す。
「流石は力士崩れ、頑丈さはピカイチだな」
「お主の拳も中々の破壊力だが、ワシの一撃で粉々に砕いてやるわッ!!」
ズシン!と四股を踏み鳴らし、片手を地面に添えて構える力士崩れの侠客不動沢の威圧的な構えに左之助さんも我流の喧嘩殺法で鍛えた構えを取った。
「はっけよい、残ったァ…!!!」
ぶちかまし。
大相撲の初手で起こりやすい攻撃、あるいは組みに向かうとてきに起こる必然的な頭突き。力士崩れとはいえ一般的成人男性の数倍、十数倍の巨体は存在その物が凶器足り得るのだ。
───あくまで一般的成人男性ならば、だ。
私の左之助さんは一般的成人男性より遥かに優れた身体能力に加えて、圧倒的なパワーとスタミナ、タフネスを兼ね備えた最強の喧嘩屋なのだ。
如何に元・力士と言えど彼の身体を弾くことは至難の技に等しい。
アンケートは二択のどちらかが500を越えたら、その内容で行きます。