「ところで、ご用件は何ですか?」
「用件と言えるのかは謎だが、犬童のヤツがお前の作っている機巧人形の兵器化を推し進めようとしている。止めるのかどうか山県の一言次第だ」
網走監獄の典獄「犬童四郎助」の暴走というより日清戦争に向けて戦力増強を願う軍部全体の立案なのでしょうが、山県卿は私の約束を違えませんよね?
そう静かに願うばかりです。
しかし、足軽殺駆達の事を解体して機巧の調査を行ったところで見えるものは歯車と鋼線を編んで作った人工筋肉、空圧式の瞬間加速を行える脚部及び背部の
「最悪、竹槍持たせて突撃が関の山だろうな」
「斎藤さんも向かうんですか?」
「いや、俺に話しは来なかったが勉に声を掛けているヤツがいた。確か……鶴見と言ったか?」
「ッ!?」
娘達の着物の解れを繕っていた手が止まり、思わず斎藤一の事を見上げてしまった。
そのせいで、私はいつもの怖い目で睨まれながら「その反応だけで察しがつく。あの鶴見という男、何かあるな?」と問い詰められる。
「いい加減にお前は隠す事を覚えろ」
「ひぃんっ…!」
「それで鶴見という男は危険なのか?」
「……ぅ、その、怖い人だと聞いています」
「怖い?」
「そこまで深く関わっていたり親しい人間でもありませんし。ただ、目的のために突き進める人だと言うのは聞いています」
「誰に聞いた?」
「えと、ドクトル・バタフライに(本当は違います。すみません、ドクトル。貴方に責任を押し付けてしまいました。すみません)」
私の事を睨み見据える斎藤一の視線の鋭さに耐えきれず、まだ繕う途中だったひとえの着物を暖簾のように持ち上げて、彼の顔を遮り、ほうっと溜め息をこぼす。
「阿呆が。ふざけている場合か」
「す、すみません。でも、怖くて」
「……ハアァ……自分を省みず、バカなことする阿呆の癖に今更怖いも何もないだろう。相楽や娘のために死にかけた阿呆が」
「ひぃんっ…!」
しくしくと目尻に涙を溜めて半泣きになる私に斎藤一は「お前は阿呆だ。それも頭の良い阿呆だ」と言われ、悲しくなってしまう。
「はあ、鶴見の事は注意しておこう。それと東京の空気は不味くなっている。余生を過ごすなら地元の長野に帰っておけ」
「……はい。お手数をお掛けします」
「全く俺より若いお前が先にくたばるな。阿呆が」
そう言い残して斎藤一は庭の方から正門に向かっていき、私は静かに手を振ることしか出来ませんでした。けど、斎藤一も何だかんだと言いながらも、私のために最後に会いに来てくれたんですね。