「ま、待て!」
「んだよ、もりあがってきたとこだろうが」
地面に膝を突いて左之助さんに焦りと負けを理解した不動沢は両手を突き出して、喧嘩の中断を申し出た彼に左之助さんは不服そうに文句を言いつつ、握り拳を開いて腕を組んでしまう。
素直で優しいところが素敵だと思う。
「その腕っ節の強さ…アンタならワシ達の苦戦している頑固なヤツを倒せる!左之助さん、アンタの力をワシらに貸してくれ!!」
まるで自分達は圧政を受けているような物言いをする不動沢の言葉に左之助さんは「込み入った事情があんのか、詳しく話しな」と優しく相談に乗ってあげる。
「元々は後ろ楯の提案ではあるだが、この宿場町をワシ達のナワバリにして、養蚕家の儲け話に乗ろうと思ったんだ。しかし、ちょいと手に負えない頑固親父が現れやがってな」
「頑固親父?」
「すでにワシの仲間が何人も負けて病院送りになるぐらい強い男だ。ソイツの名前は東谷上下ェ門っていう町の顔役みてえな大根農家だ」
「嗚呼、親父の事か」
暫しの沈黙が続いた。
「ぬぁにいぃいっ!?テメェがあの上下ェ門の家を飛び出したっていう馬鹿息子だってのか!?」
「テメェ等が人ん家の大事な大根畑を岩やゴミで滅茶苦茶にしやがったのか!?」
左之助さんと不動沢の全く気づいていなかったと言う風に驚く二人の声に思わず、漫才やコントのように転びそうになりながらも眼鏡を掛け直す。
しかし、こうして考えると凄い光景だ。喧嘩を売って、自分より強い人の相手を頼んだら、まさか強い人の息子に父親と喧嘩してくれ、と頼んでいるわけだし。
「こうなりゃ仕方ねえ…!」
「仕込み刀に斧、木材はここら辺の有り合わせで作ったもんか。分銅とかどうやって買ってんのか気になるじゃねえか」
「テメェ等、殺っちまえ!!」
このままだと危ないと左之助さんに叫び掛けた刹那、左之助さんはピンチだというのに大胆不敵な笑みを浮かべ、右手を真横に突き出した。
「槍よ、来い…!」
その間も素手の左之助さんに極道が向かって行こうとしたその時、心臓の鼓動に似た何かが聴こえ、暴風を伴って左之助さんの目の前に蛮竜が現れる。
一瞬、ほんの一瞬だけ、左之助さんが蒼月潮の様に見えてしまい、目元を擦って眼鏡を掛け直して彼の事を見つめてしまった。
「……えぇ?」
まさかの展開に私は困惑の声を溢しながら、荒々しく脈動する蛮竜を掴み、左之助さんは百人、あるいは二百人を越える人数の相手に向かって駆ける。
「蛮竜も新婚挨拶を邪魔するヤツは許さねえってよ!手加減してやるから本気で掛かってきなァ!!」
一気呵成の勢いで蛮竜を振り抜き、巨大な刀身の腹で殴り付ける左之助さんの姿を次々と和紙に描いていく。東京に帰ったら、この絵は売れる!
そう私は絶対的な確信しながら豪快に蛮竜を振り回して相手を打破し、力の差を見せつける左之助さんと逃げる不動沢の姿を眺める。