「しとりとひとえは何処だ?」
「お散歩です、あそこから」
すうっと梯子を指差すと左之助さんは苦笑を浮かべながら「ありゃあ景に似て好奇心の塊だからな」と呟く。私というより左之助さんですね。
「帰ってくるまで待っていましょうか」
「そうだな」
背広を受け取って着流しに着替える左之助さんの傍に立っていると、寝室の窓の外に人影を見掛けて、そちらを見ると般若が張り付いていました。
こ、この人は本当にビックリしますねっ。
ドクンドクンと痛く鳴る鼓動を抑えるようにしゃがみ、深呼吸を繰り返していると、左之助さんが窓の方を向いて般若に気付き、追い掛けていく。
「(び、ビックリしすぎて、痛いッ…)」
ゆっくりと深呼吸を繰り返して、痛みを和らげる。神酒や恵さん、ドクトル・バタフライのお薬のおかげで痛みは少ないですけど。
やっぱり、苦しいものは苦しいです。
「すまない。糸色殿……」
「い、いえ、大丈夫ですけど、なぜ?」
般若面を外して翁面を着けた般若さんに戸惑いながら左之助さんを見上げる。───やっぱり、左之助さんも仮面を変えた理由が分からず、困惑しています。
「般若、そういうのは良くねえだろう」
「……若が、私の面で泣くのだ」
ああ、般若面は怖いですからね。
悲しげに肩を落とす彼の肩を叩き、優しく慰めるのかと思って、左之助さんを見遣ると爽やかな笑顔のまま「ウチのひとえに色目使うガキだ。もっと泣かせろ」と言い切った。
「私よりも血も涙もないぞ、相楽!」
「阿呆が。オレの娘にマセて近付きやがるガキに気遣いなんてするわけねえだろう。しとりと剣路の許嫁の話しもまだ辛えのに耐えられるか!!」
そう左之助さんは叫ぶ。
娘を持つ父親の性ですね。
お父様は左之助さんを気に入ってくれたおかげで、すんなりと終わりましたけど。アレは事前に伝えず、強行した結果なのかも知れませんが……。
お父様と左之助さんが仲良くなってくれたのは本当に嬉しかったです。
「ああ、それと翁の事で思い出したのだが」
「柏崎さんですか?」
「ドクトル殿に頼んで、どうやらホムンクルスになってしまったようで……」
「あの、もしかして柏崎さん馬鹿なんですか?」
思わず、そう聞いてしまいました。
「老い先の短いとか言っていたのに、いっこうに変わらないので怪しんだ操様が問い詰めたところ、どうやら北海道の時には既に成っていたそうです」
「あの爺さんならするな。御庭番衆の行く末を見守るとか孫の孫も見るためとか言いそうだぜ」
それは、そうですけど。
ものすごく、寂しくなってしまいますよ?