外印の生存説を伝えると、ドクトル・バタフライは困惑していました。おそらく彼自身もあり得ない出来事だと分かっているのでしょうけれど。
「手心を加えましたか?」
「いや、無い。私は確実に心臓を貫いた」
そう言って口許を押さえて動揺するドクトル・バタフライの顔は本心を語っており、ウソを吐いている様子もなく、本当に予想外の出来事の様です。
実際、死んだと思っていた友人の生存ほど戸惑うものは無いのでしょう。それが自分で殺めた相手なら尚更、戸惑い、焦り、惑う、それは普通の事です。
「……ドクトル、仮説として思い浮かぶのは二つです。核鉄を心臓の代用品とし、自分の体内に取り込んでいる。そして、もう一つは貴方と同じくホムンクルスに彼も変態しているというものです」
私の提示した解答に彼の顔付きは変わる。
「───それならば、後者だろう。ただ、一時的に核鉄を使い、その後にホムンクルス化したと考えておけば大筋は成立する。だが、私や他のホムンクルスに知られず、日本で活動するなどあり得るのかね?」
「そもそも外印は日本に居ません。おそらくと先につけますが、清国の上海、雪代縁の所属していたマフィアを母体としたホムンクルス組織を創立している可能性だってあります」
「清国……あまり立ち寄っていなかったが、そうなっているか。しかし、魔都と呼ばれる理由も分かる。あそこまで人の多い国は近くにない」
今度は、私が頷く。
「ずっと違和感を抱いていた。私と違って、外印は知識の乏しい人形遣いだった。だというのに、人形だけでなくホムンクルスまで製造していた。────糸色君、楯敷ツカサの介入は何割だろうか」
「八割です。ドクトルの手記を盗んでいたとはいえ一人だけで製造できるとは思えませんし…」
外印の人生に介入していたとすれば、その目的は核鉄を持つ前のドクトル・バタフライの抹殺か私と接触するタイミングを変えたかったと考えるべき────。
「(まだピースが足りない。せめて、あともう少しだけヒントと呼べるものがあれば良いんですが)」
「糸色君、私はこの明治を生きる転生者達を招集する。おそらく日清戦争のタイミングで向こうは仕掛けて来るだろうと考えているのだが……」
「いえ、日露戦争のタイミングでも仕掛けて来る可能性も捨ててはいけませんよ。戦争のタイミングなら、ホムンクルスを投下しても錯覚と言われます」
なにより人間の多さを加味して考えると、戦争以外に仕掛けるタイミングこそ最大勢力です。