「相楽左之助、お前が鬼か」
「鬼?オレは旦那だ」
「なら、引きずり出すだけだ!」
左之助さんの答えに顔をしかめる呂虔は震脚と同時に両腕を振るい、獰猛な肉食動物のごとき荒々しい動きで攻撃を繰り出し、左之助さんのシャツと背広を引き裂き、一切の無駄を省いた理想的な腹直筋、胸筋、前鋸筋、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋が露になります。
やはり、素敵な筋肉です。
「
「テメェ、景の作ってくれた服を!」
「俺の爪を通さぬ筋肉、称賛に値する」
刹那。
「だが、俺の相手ではない」
力強い震脚ではなく鋭く素早い蹴撃が左之助さんの頭を蹴り抜き、地面に叩きつけようとした。が、左之助さんは首の力で蹴りを受け止め、軸足の膝を踏み潰し、へし折ると動けない呂虔の顔に二重の極みを撃った。
衝撃は顔を貫通し、地面に蜘蛛の巣状の傷痕を刻み付け、左之助さんは不満そうにシャツと背広の切れ端を手に取っています。
「今の何やったの?」
「見えなかったから分かんない」
「社長が足折ると顔面をアレでぶん殴った」
「景、破かれたが……直せるか?」
「え、あ、はい!な、直せます」
うぅ、不覚です。
いつもかっこいいと思っている左之助さんが、スマートな戦い方を見せてくれたから、ドキドキとしています。こんなのズルいです、卑怯です。
しかし、呂虔の名前を貰っていた人とは思えないほどあっさりと負けてしまったけれど。このまま放置するというのは流石にダメですよね。
「旭さん、添え木になる物をお願いできますか?長谷川君と井上君は手拭いを彼の口に、左之助さんは両手を縛って彼の事を運んで下さい」
「ちょっと待って、助けるの?」
「まだ実害は……出ていますけど。左之助さんを人殺しにするつもりはありませんから」
「まあ、喧嘩で何人かブッ殺した記憶はあるがな」
それは、どうなんですか?と言いたい気持ちを我慢しながら、左之助さんに手伝って貰い、折れた足に手拭いを巻き付け、核鉄を添える。
盗まれるかも知れない。
それでも怪我を負った上、死なせてしまうより何倍もましです。それに、外印に繋がっているかも知れない人をそのままにしておくつもりはありません。
知らなくても現在の清国の状況や依頼した人の名前を知ることはできるはずですし。雪代縁の動向も向こうは知っているのかも知れませんから、少しでも情報に成りうるものは欲しいんです。
「……景、無理に考えるなよ?」
「え?ひゃあっ!?」
いきなり左之助さんにぐいっと腰を掴まれ、抱き上げられ、お姫様抱っこで運ばれる。待って、私もうすぐ三十路だから流石にお姫様抱っこは恥ずかしい!