東京府の山奥。
左之助さんは目の前に聳えるデコボコの巨岩に右拳をコツンとぶつけた瞬間、円錐形に衝撃は駆け抜ける。二重の極みのバリエーションは幾つか存在し、その奥伝・秘伝と言える技術は全身を用いて放つ「総身」です。
技術は分子結合を二度の打撃で崩し、対象物を粉砕するというシンプル且つ強力無比の打撃です。
「やっぱり、無動の所作は難しいですか?」
「まず拳を押し当てた状態で撃つってのが分からん。地面から力を練り上げるのは景の話や、呂虔の動きで分かるっちゃ分かるんだが…」
そう言って指先、第二関節、拳骨、ゆっくりとした動きで三度の衝撃のリズムを作り、撃つ。貫通力を加えた「捻り」の二重の極みもそうですけど。
肩関節と肘関節に負担を掛けてしまう。
打撃のインパクトの強弱は関係していますが、最も重要な行程は衝撃の伝達速度です。私のへなちょこパンチは当てても毛ほども痛くないでしょう。
しかし、そのへなちょこパンチに速さを与えると切れ味の鋭い打撃に変化し、インパクトの瞬間に力めば僅かながらもダメージを与えることはできる。
二重の極みを撃った人なら、私並みのへなちょこパンチを使っても衝撃を伝達し、破壊の極意を使えるわけです。重要なのは刹那を見極める感覚になるわけです。
「オレは両拳だけ。和尚は全身。しとりとひとえに教えてやりたいんだが、こんな岩を撃つ練習なんざアイツらも嫌がるよなあ」
「それは、本人に聞くしかありませんよ」
しとりとひとえは教えたら覚えてくれるかも知れませんが、あまり危ない事を教えるのは母親としてオススメしたくありません。
……でも、未来だと我が家の家伝なんですよね。
「景もやってみるか?」
「えっ、で、できますかね……」
しゅっ、しゅっ、と手を振ってみる。
「すまん」
「あ、謝らないでっ…!」
ちょっと、その可哀想なものを見る目を止めてください。私だって自分の運動神経の無さは自覚しているんです。それでもやってみたかったんです。
うう、私はよくあるバトルヒロインでも戦うヒロインでもないんです。きっと、園田君や百合さんの世界で連載していた「るろうに剣心」の私はすごいバトルヒロインだったんでしょうけど。
「また、変なこと考えてねえか?」
「いえ、考え事はしていないです」
「他の事はしてたわけだな」
他の事も何もしていません。
それはもう言いがかりになっていると思います。
「ここが山奥だって忘れてねえよな?」
「ひぃんっ……!」