「…………で、でけえな……」
唖然と糸色家の正門を見つめる左之助さんに苦笑し、ポンポンと彼の腰を叩いて「ただの見せかけですから気にしないで下さい」と告げる。
糸色家は元禄に生まれ、明治まで「先生」と職業に就いている少し変わった一族だけど。左之助さんもこれからは糸色家の一員である。
「さ、行きましょう」
「そっちは壁だ…ぞ……えぇ?…」
「見せかけですから。正門は此方です」
「なんだって、ここに?」
左之助さんの困惑はごもっともではある。でも、このヘンテコな家の造りを考案したのは何代も前の糸色家当主であり、私の関わり知らぬ人だ。
そう関わったら大変そうな人の事を思い出しながら壁に偽造した扉を押して開ける。閂も掛けず、相変わらずの不用心さに溜め息をこぼす。
「あら、漸く帰って来たのね」
南蛮品の唐物を平然と盆栽として扱っている、やっぱり何処か人と価値観の擦れた母の唐突な登場に私と左之助さんは驚きつつ、ゆっくりと扉を締める。
「……景の妹か?」
「母です。糸色頂、糸色流茶道の先生で」
「嗚呼、絶頂先生か!!」
「ッ、薙刀を持てぇえ!」
「殿中にございます!」
「構いません、斬ります!!」
付き人に取り押さえられて連れていかれるお母様の変わっていない。むしろ外見も変わっているのか不安になる若々しさにショックを受ける。
何故、私は老けて見られるのか。
「すげえな、お前の母ちゃん」
「だから言ったじゃないですか」
ペチペチと彼の手を取って叩きつつ、しっかりと今度は繋げ読みをしないように頼み、玄関先で草履を脱いで大居間に向かって歩く。
父は基本的に人目に付きやすい場所にいる。
「おや、随分と懐かしい子が帰ってきたね。お帰り、景。君の不安は少し取り除かれた様で私は嬉しく想うよ。そして君が相楽左之助君だね、ウチの娘から手紙で聞き及んでいるよ」
「はい。只今帰りました」
「オレの事も知らせてたのか」
「えぇ、当たり前の事です…!」
私と左之助さんのやり取りにウンウンと何度も頷き、楽しそうにしているお父様は手鏡越しに涼やかな表情で「しかし、景も私に似て男前な人を選んだね」と言ってきた。
「いや、選んだってかオレが捕まえたな。気付いたらフラフラと何処かに行きそうでよ」
「ああ、分かるとも!私のときもそうだった、頂なんて仕事だからと逢瀬を無視したり、怒ったら薙刀や刀を即座に求めるし、本当に素敵な人さ」
「……お前の父ちゃんも変だな」
「愛妻家なんです。ナルシスト……コホン、自分の顔も好きだから綺麗なものが大好きでお母様を口説くために弟子入りしましたからね、この人は」
「いやー、褒めるなって」
褒めてはいないのよね、お父様。
あといい加減に手鏡越しに話すのは止めなさい。
そろそろアンケートを終了しますね。