「左之助さん、大丈夫ですか?」
私の事を玄関先で胡座の中に抱き込み、紅潮し、酒気を感じる顔付きで帰ってきた左之助さんに、そう話し掛けると黙ったままスンスンと鼻を鳴らしています。
夜遅くに帰ってきたこともそうですけど。
こんなに酔って帰ってきたのも数年振り。しとりとひとえが生まれてからお酒を飲んできても酔って帰ってきた事は無かったから、ほんの少しビックリです。
「風邪を引きますから、立ちましょう?」
「んー、一緒に居てくれえ」
「んッ、お酒臭いですよぉ」
頬っぺたにチューしてきた左之助さんの顔を押し返して、ペチペチと背中を叩いてあげるものの、酔いは醒めずに私の事を抱き締めたまま、しなだれかかってくる。
「重っ、きゃあっ!?」
ゴツンと後頭部を打った痛みに我慢できず、ちょっとだけ涙を流しながら、左之助さんを見ると、可愛く酔った顔でにへらと笑っていました。
いつもカッコいいのに、可愛いです。
すごくギャップ萌えを感じますねっ。
そんなことを考えながら、左之助さんの腕から這い出ようとしたとき、彼の手が帯留めを掴み、ぎゅうっと力強く抱き締めてきた。
「かはっ、さ、さのッ…!」
「離れるなって…」
「くるひっ、息がッ…でき、な…」
お腹を圧迫される苦しさと酸欠によって視界がぼやけ、死にそう……もう、このまま好きな人に殺されても良いんじゃないかと考えてしまう。
「左之助さん、大好きです」
「オレも愛し、なんで鼻血出て…?」
「へ…あ…?」
ポタポタと左之助さんの背広の二の腕に落ちる鼻血に気付き、彼の酔いは醒めてしまった。ああ、また心配させてしまいました。
翌日。
私は恵さんの診療所の寝台に居ました。
「こんの馬鹿力!酔ってたからって危うく自分の妻を酸欠で殺し掛けるなんて、この馬鹿代表!!」
「左之助、流石に悪酔いしすぎよっ!」
「そ、そうですよっ、飲み過ぎ注意です!」
恵さんと薫さんと燕さんの声が聴こえ、ぼんやりとする頭が冴え始めて、ようやく私は左之助さんの腕の中で死にそうになっていた事を思い出した。
……死の抱擁というのも良いかも知れませんね。
いえ、流石にダメですね。
そんなことを思いながら、昨日の自分の倒錯した感情を鮮明に思い出せてしまう。怖いけど、幸せ。幸せなのに、怖い。
矛盾過ぎて、頭が壊れそうです。
ゆっくりと病室の戸を開け、病院着のまま廊下に並ぶみんなの呼び掛けを無視して、私は罪悪感に苛まれ、顔色を悪くする左之助さんを抱き締めてあげる。
「大丈夫です。ちゃんと生きていますよ。ほら、心臓だって動いています、左之助さんは少し力加減を間違えてしまっただけです」
「……いや、オレが悪いんだ。こんなんじゃ離縁されても仕方ねえよ」
「左之助さん、離縁なんてしませんよ?私の事を愛しているなら、最後まで私を愛して下さい。浮気しちゃ許しませんからね?」
そう言って私は左之助さんをまた抱き締める。
好き、大好きです。