「ちっせえ姿が居やがっま…」
「左之助さん、お帰りなさい」
「あら、帰ってきたのね」
そろそろ帰ってくる時間だったので玄関で待っていると困惑顔の左之助さんが、しとりと壮君の事を抱っこして帰って来ました。
「……なにが?」
「しとりと仕合ってるのが見えてな。眺めてたんだが、この坊主が見事にまあスッ転んだ」
「ころんでないっ」
「ん、わたしも見てたよ?」
「……それでも、ころんでないっ」
頑固なところも姿お兄様にそっくりですね。
「しとり、先に手洗いしてこい。坊主は擦りむいた足手当てしてからだ」
そう言って救急箱を探しに向かう左之助さんの背広の裾を摘まみ、袖の中に仕舞っている持ち運び用の救急箱を取り出すと「その袖の中もマジで見てえんだよなあ」と呟かれました。
見てもひみつ道具や画材の戸棚があるだけで、変なものはありませんよ?と思いながら、すうっと袖を隠すと左之助さんの手が袖の中に差し込まれた。
「おっ、なんか掴んだ」
ぐいっと引き抜かれた左之助さんの手には私の使っているキャンバスとイーゼルが現れ、鎌足お義姉様は困惑し、子供達はキラキラとした目を向けてきます。
妖怪じゃありませんからね?
「景さん、すごいわね」
「そうでしょうか?」
「すごい隠匿術」
「待って下さい。それは忍者のすることです」
今のは科学なので忍法じゃないですからね。
そう説明しているのに信じてもらえず、左之助さんに助けを求めるも「御庭番衆のヤツに装束借りてみるか?」と、あからさまに破廉恥な事を考えている顔で左之助さんまで提案してくる。
「良いわね。景さん、似合いそう!」
「似合いませんっ。それに、あんな足を出すなんて恥ずかしいじゃないですか」
私の言葉に、しとりは「でも、走りやすいよ?」と言ってきた。袴は走りやすいですけど……いえ、そもそも無事に完走できる体力がありませんね。
やっぱり、そういうわけです。
「しとり、その竹刀はどうしたんですか?」
「ん。貰った!」
「要は戦利品だな」
「左之助さん、悪いことを教えましたね」
「いや、弥彦だろ」
明神君がそんなことを教えるわけないじゃないですか。まあ、確かに明神君はちょっと悪戯好きなところはありましたけど。
今は優しくて強いお父さんです。
「父様が勝ったら貰うって言ってたよ?」
「左之助さん?」
「馬脚をあらわしたわね」
「しとり、父ちゃん言ってたか?」
「ん!北海道で景はオレの女だー!って言ってたの、覚えてないの?」
「ああ、あのときですね」
「「お前が覚えてるのかよ」」
まあ、絶対に忘れませんからね。