「そろそろ京都に行かないとですね」
そう湯上がりの少し濡れた髪を左之助さんにひみつ道具ではなく、普通のドライヤーで乾かして貰いながら、私は呟く。
二日前に鎌足お義姉様の帰った後、私は般若に頼まれていた絵襖の事を左之助さんに相談する。以前にも相談していましたが、流石に時間を掛けすぎていますし。
そろそろ行ってあげたいです。
「景は乗り物はきついから徒歩だな」
「徒歩……」
京都大火の時は横浜を経由して移動していましたけど。今回は火急の用事ではありませんし。そう考えると、比較的に安全ではありますね。
「しかし、京都か。何だったか、でけえ寺子屋が何年か前に出来てたよな?」
「実業学校の事ですか?」
「多分、それだ。たまに見学に来る」
「実業と言う通り、農学や商学など学科がありますし。左之助さんのところに来ているのは商学、いわゆる商業を学んでいる生徒さん達ですね」
「景も通ってたのか?」
「私は寺子屋時代からずっと教鞭側です」
そう言ってほうじ茶を飲み、笑う。
算盤を使わずに回答せよという問題を出す先生も居ましたけど。自分が答えを知らないのに、どうして怒ることが出来るのかは不思議でしたね。
「ああ、そういやな。名刺も貰ったんだ」
「名刺、珍しいですね」
ごそごそとクローゼットに仕舞っていた背広を漁り始めた左之助さんが、小さな紙束を内ポケットから取り出して、一枚ずつ捲っています。
ちょっとだけ可愛く思う。
いえ、可愛いですね。
「あー、これだ。ほら、有ったぞ」
「ありがとうございます」
左之助さんの差し出す名刺を受け取り、名前を確認するために目線を名刺に向ける。
京都府実業学校農業学科教員
姉畑支遁
「?」
おかしいですね、変なものが見えます。
眼鏡を外して、眉間を軽くほぐす。
姉畑支遁
いえ、違いますね。
これは、見間違いでしょう。
「ん゛ッ……げほっ、ごほっ!」
「景ッ、大丈夫か!?どうした!?」
よりによって、なぜ?
そんな事を考えながらも会ったら、ひみつ道具で間違いを犯さないように去勢……じゃなくてですね、えと、矯正したほうが良いかも知れませんね。
うん、会うのはとても怖いです。
「ケホッ、ケホッ……」
「コイツと知り合いなのか?」
「い、いえ、知り合いたくないです」
「知り合いたくないってなんだよ?」
「こう、名前から並々ならぬ恐ろしさを感じたと言いますか。ちょっと関わりたくない相手だな、なんて思ってしまったような気がするような……」
「すげえ取り乱してやがる……」
それは、そうなりますよ。
だって、あの姉畑支遁ですよ?