「みなさん、主張が激しいですね」
蒼紫様の隣に、御頭の傍に、そんな指示とお願いを箇条書きされた和紙に眉間を揉みつつ、襷で袖を縛って筆の先を舌に当てて湿らせ、下絵の線を襖に描く。
他の人には見えないでしょうが、薄く下地になる色を塗っているんです。しとりとひとえがいるときは絶対に筆を舐めるなんてことはしませんけど。
「(構図は以前と同じく静謐さを宿す老獪な忍び集団を思わせる感じで良いですね。二人のお子さんを真ん中に添えて、三代目の大紋を背負って貰えば…)」
筆を次々と使い分け、顔料を練って色を変化させ、両開きの襖の上部に満月は開くと同時に分かたれ、半月に変わる。月を背負う忍びというのもいいです。
ちょっとした仕掛けに立体化する位置と角度を用意し、視線によっては子供を抱く四乃森蒼紫の眼差しが微笑みに変わったりします。
「操さん、覗き見ですか?」
「流石にバレるわよね。景さん、私から個人的な頼みになるんだけど。蒼紫様と私の春画を書いてもらえないかしら」
「……すでに描いていますよ」
「マジ!?やったー!」
そう言って鞄を広げて、操さんの頼んできた春画を見せると彼女はものすごく喜んでくれましたけど。どうして、そこに本があることに気づかないのでしょう。
いえ、あえて気付いていないふりをしているのなら、気付いていないのも当然になる。ただ、問題を出すと般若が見ていることですね。
「操様だけ、贔屓ですか」
「どちらかと言えば賄賂ですね。私が居なくなっても変わらず、ずっと家族を見守ってもらえるように、という魂胆です」
絵を描く手を止めて、部屋の中に入ってきた般若にそう伝えると動きを止め、ゆっくりと頭を下げてきた。そういうことを求めているわけではないんですけど。
そういうのはダメだと思う。
「般若、何をしている」
「ごめーん、見つかっちゃった」
「……四乃森さん、私は仕事中ですので」
「分かった。相楽に伝えておこう」
それは、違うと思います。
あの、それだと私もお仕置きを受ける可能性があるんですけど。四乃森蒼紫、まさかわざとやっています?と、グルグルと頭の中を良くないことが巡る。
「それと、俺の寝巻きの絵襖は消しておけ」
「「そんな!?」」
描いた本人より妻と右腕がものすごくショックを受けているのは良いんでしょうか?と首を傾げながら、私は「ご家族で相談して下さい」とだけ伝えて、また絵襖を描く事に集中する。
左之助さんもそうですが、美形なんですから全面的に押し出していったほうがいいです。