「はあっ、はあ、…んしょっ…!」
倒木を乗り越えて、獣道か山道かも分からない場所を歩いて、私は左之助さんと一緒に比叡山の山中に埋もれたであろう十数年前の戦地の前にいます。
志々雄真実の最期の場所────。
僅かに霊気を感じるのは比叡山だからでしょうか。
「なんで、こんなとこに来たいんだ?」
「少し、気になることがありますから」
「気になること、ねえ?」
私の言葉に顎を擦って考える仕草をする左之助さんの隣を歩きつつ、薄暗い通路の奥が見えるように、ひみつ道具「ヘッドライト」を頭につける。
「おっ。お揃いだな!」
「フフ、そうですね」
自分の鉢巻きを親指で触る左之助さんのカラカラとした笑い声に私も微笑みを浮かべつつ、ゆっくりと倒壊していない通路を歩く。
煤けた臭い。
爆発の後であることは確かですけど。
ニトログリセリンの臭いがします。
「……左之助さん、発破したの斎藤さんですね?」
「知らん」
ぷいっと彼は顔を逸らす。
もうっ、……まあ、私の作ったダイナマイトが戦争に使われることはないですし。あまり心配する必要はないと思うことにしましょう。
現実逃避ではありません。
これは、脳のお休みです。
「んッ…左之助さん、下がりましょう」
「何かあるのか?」
「下です。比叡山も霊山ですから、可能性は考えていましたけど。やっぱり蠱毒に使われていましたね。しかも、ここは志々雄真実の亡くなった場所、他の霊山よりも強い念が籠っています」
「……ありゃあ、ムカデか」
吊り橋の下を覗く左之助さん。
うぞうぞと動く百足の生き物に口許を押さえて、おぞましく恐ろしい蠱毒を無視し、更に私と左之助さんは通路を進んでいく。
やっぱり、怖いですね。
「……ここだ。ここで志々雄は死んだ」
広い空間。
空が見えるけど、骨組みは焼けて、残っているものは建物だったものの何かという程度。ただ、そこに残っているというだけで、霊も妖怪もいない。
「景、何かいるのか?」
「いいえ、何も居ません」
ゆっくりとお供え物を置いて、一礼する。
新しく描いたものです。
あの世でも楽しんでください。
もっとも、私が言わなくても閻魔大王様に喧嘩を売っているというのは分かりきっていますし。ただ、閻魔大王様も志々雄真実のことを気に入りそうなんですよね。
いえ、悪いことではないんですけれど。
やっぱり、危険に感じるといいますか。
絶対に良からぬ事をしていそう。
そんなことを考えてしまいます。
「景、もう帰るか?」
「はい。お参りは済ませましたから」