「ケホッ、ケホッ」
今日も景は寝室の布団に眠って咳をこぼす。
日に日に弱る身体を支えて、青白くなった顔を見つめると申し訳なさそうに眉をハの字に曲げ、オレの差し出す水と薬を飲み、また横になる。
夫婦になって十三年と共に過ごしてきたが、コイツの隠し事はついぞ教えて貰えないのかも知れないと考え、汗の滲んだ顔を拭いてやる。
擽ったそうに目を細める景の顔色は悪い。
あと何年……いや、何ヵ月か分からないが、景はツカサに神通力を差し出して死ぬつもりだ。未来の子供の命を繋ぐために、景は死のうとしている。
オレはどうなる。
しとりやひとえをどうする。
まだ、しとりとひとえの晴れ姿も見てねえ。孫の顔も見ずに死ぬのかと怒りよりも、景の辛さを代わってやれない自分の身体が恨めしい。
好いた女も救えない。
「左之助さん、あったかいです」
「景は冷たくて気持ちいいぞ」
「フフ、それじゃあ、雪女ですねえ」
クスクスと笑う声は僅かに弾む。
志葉の大将曰く「糸色は志葉家に匹敵し得る火のモヂカラを持っている。それこそ己が身を焼くほどに強い力を、だ」と言い、そこから続けるように「それに、あの気質だろう。力の発露や発散など好むわけでもない」と教えてくれた。
この小さな身体に訳の分からない力が何個も備わっている。それが長い年月を掛けて、景の身体を蝕んでいるのだと言うことはオレも知っている。
それは、ひとえにもその兆候はあるらしい。
────だが、オレの頑丈な身体に似ているおかげで、しとりもひとえも長生きすると蝶野のオッサンはオレと景に告げた事は今でも覚えている。
「景、ゆっくり眠っとけ」
「んッ………はい、ありがとうございます」
ゆっくりと頭を撫でてやる。
景はよく人の頭を撫でて褒める癖がある。気がついたらオレもよく人の頭を撫でるようになっていたが、しとりもひとえもアの三馬鹿も喜んでいる。
剣路のヤツは不服そうだがな。
寝息を立てる景を起こさないように立ち上がり、寝室の戸を開けて、また閉める。日が傾き、茜色の差し込む縁側に向かい、稽古に励むしとりを見つめる。
姉ちゃんだからと無理しているのかとも考えたが、しとりはまだ景の事を諦めていない。オレも蝶野のオッサンも他の奴らもそうだ。
景はオレを太陽のように見るときもあるが、太陽にはいつも月が寄り添っている。月は太陽と一緒にいるものだ。だから死なないでくれ。
「とーさま、どうしたの?」
「……何でもねえさ。ひとえはどうした?」
目尻を擦って涙を拭い、ひとえを抱き上げ、胡座を掻く足の間に座らせてやる。しとりもひとえも景の面影を感じる顔立ちだ。
ずっと、お前らも傍にいてくれ。
今の父ちゃんは、ちょいと寂しん坊だからな。