今日も景は布団に眠って咳をこぼす。
濡れた手拭いで寝汗を拭いてやり、咳き込み、苦しそうに目尻に涙を溜める景の身体を労って、小さく細く薄い身体に手を添える。
掴めば簡単に折れてしまいそうな身体だ。
よくこの身体で二人も産んでくれた。景のおかげでオレは家族を持つことが出来た。嬉しく思う反面、身を削ってくれた景の事で不安になる。
「景、着替えるか?」
「はい、ケホッ」
汗の滲んでいた身体を拭き終え、景がまた体調を崩さないように替えの浴衣を着せてやる。普段なら恥ずかしがって拒むのに、最近は素直に受け入れる。
だんだんと焦りが生まれる。
景の身体はあとどれぐらい持つ。
まだ死なないでくれ。
そんなことばかりオレは考えている。景はそんなオレの不安に気付いているのか。申し訳なさそうに咳き込みながら、オレの事を抱き締めて、優しく頭を撫でる。
「左之助さん、大好きです」
「オレも大好きだよ」
「寂しいからって私の偽物を作っちゃダメですよ?」
悪戯っぽく笑う景は目を閉じる。
死んでいない。
だが、もう長くないのだ。
オレは何をしてやれた?と苦しそうに眠る景の事を見下ろしながら考えてしまう。本当はずっと景を苦しめていたんじゃないのか?
「……オレの、せいか」
「違いますよ、違います」
目を閉じていた筈の景はオレの手を握りながら、オレの呟きを否定する。じゃあ、どうして、今にも死んでしまいそうなお前の事を助けることが出来ねえんだ。
オレが、何かしたからなのか。
「左之助さん、抱っこしてほしいです」
「……わかった」
布団を退かし、浴衣の景を抱き締めて、抱き上げる。出会った頃から変わらず、ずっと小柄な景の身体が腕の中にすっぽりと埋まる。
「知っていますか。私、左之助さんに出会うまで家族以外の誰かと親しく接したことがなかったんです。人が怖くて、この世界が怖くて、生きることが怖くて、ずっと怯えていたんです」
ゆっくりと景は言葉を吐露する。
知っている。ちゃんと知っている。
「その恐怖を左之助さんが壊してくれた。最初は怖かったけど、だんだんと貴方の笑顔が好きになって、太陽のように想っていたんです」
───だから、と言葉が続く。
「夫婦になろうって言われたとき、嬉しさと恥ずかしさでずうっとドキドキしていたんです。ああ、私も幸せになっていいんだって……」
───また、だから、と言葉が続く。
「泣かないで?私は幸せでしたから」
「オレも、お前と会えて幸せだった」
「フフ、じゃあ、一緒ですねえ…」
そう言って景は目を閉じる。
眠っただけ、まだ死んでいない。
その事に、オレはホッとしてしまう。