剣路君の事を今日も倒したしとりは笑顔です。
面具を外して髪を束ねた手拭いを解くしとりに見惚れ、顔を赤らめる剣路君の初々しさにクスリと笑っている私の隣で稽古を眺めていた左之助さんは、ものすごく不満そうに「負け続けてる癖に恋慕は一丁前か」と呟く。
女の子のほうが成長は早いですが、あと一年か二年したら剣路君の方がしとりよりも背丈も伸びますし、筋肉の差も出てきてしまいます。
「剣ちゃん、弱くなった?」
「ッ、うるせえ!」
カアッと悔しさと恥ずかしさで顔を赤く染めた剣路君は道場の戸を力任せに開け、飛び出してしまった。コテンと不思議そうに小首を傾げるしとりに、緋村剣心と薫さん、明神君も微妙な顔で笑っています。
ただ、左之助さんはケケケッと笑っています。
一度、許嫁になることを認めたなら素直になればいいのに。左之助さんは剣路君がしとりより強くないといけないと考えている。
「しとりは剣路君の事好きですか?」
竹刀の手入れをするしとりに近付いて、そう問い掛けると不思議そうに私を見上げると、にこりと可愛い笑顔を見せてくれた。
「わたしは剣ちゃんのこと大好きだよ!」
「あらあら」
「えとね、前に一回だけ負けたとき、嬉しくてチューしちゃったもん。……あと、剣ちゃんに負けるとね、ドキドキするの。剣ちゃんはもっと強くなるんだなーって」
「フフ、可愛いですねえ(これは、強い人が好きというより自分を乗り越えて、どんどん勝つために強くなってくれる人……いえ、自分の事だけを見てくれる剣路君が大好きなんですね)」
「だからね。剣ちゃんに勝って欲しい。けど、負けるのは嫌いだから勝ちたい」
「私の性格と、左之助さんの負けず嫌いが凄いように噛み合っていますね。流石は私達の娘です」
よしよしと少し汗を掻いたしとりの髪を櫛で解いてあげながら褒めていると、道場脇の井戸の水を浴びてきたのか。冷静さを取り戻した剣路君が道場の戸を開け、此方に戻って来ました。
「しとり、もう一回だ」
「ん!また倒してあげる!」
にっこりと微笑みを浮かべ、しとりは宣言する。
「母さん、防具無しでやりたい」
「剣路、怪我じゃすまないかも知れないのよ?」
「これを着けてたらしとりに追い付けないんだ」
「じゃあ、わたしも着けない。剣ちゃん、母様に教えてもらった技を見せてあげるね♪︎」
緩やかに霞の構えに竹刀を構えたしとりに緋村剣心と薫さんの視線が此方に向きますが、しとりがやろうとしているのは「桜花七式」の桜一刀流の技ですね。