「……あの、家はまだ向こうですよ?」
「そうだな」
私の肩を掴んだまま動こうとしない凍座白也に戸惑いつつ、武家屋敷や日本家屋の立ち並ぶ中、少し目立つ二階建ての大屋敷に三つの大倉の見える商家。
私の購入して左之助さんに土地の権利や諸々を渡してある我が家は目と鼻の先だというのに、凍座白也はニコニコと笑っているだけです。
「なあ、糸色殿」
「はい、なんですか?」
「先程、儂に頼み事をしただろう」
「はい、しましたね」
「少しばかり儂の願いも聞いて貰っても良いだろうか。嫌ならば構わんのだが」
「……緋村さんとの戦いですか?」
「ウムッ!!!五稜郭にて交えて以降、音沙汰もなく相手にもしてくれぬ。糸色家が詰まらん訳ではないのだが、あの強さを今一度味わいたいのだ」
そう言うと肩を掴む手の力が強まり、ミシリと鎖骨の骨が砕けるような音が聴こえた瞬間、凍座白也の頭に竹刀が当たり、地面に落ちる。
「びゃっくん、母様を虐めちゃメッ!!」
「────ハッハッハッ。左之助殿よりも
やっぱり怪我を負っていない凍座白也は竹刀を拾い上げると、無造作にしとりに向かって竹刀を投げ返し、突き刺さると目を瞑ってしまった。
……けれど。悲鳴は聴こえず、恐る恐る目を開け、しとりを見ると電光丸を抜刀し、竹刀を剣先から柄頭まで綺麗に両断していた。
「うむうむ、流石は我が友の姪っ子じゃ。一瞬の迷いもなく飛来する竹刀を切り裂き、最小限の動きで二手目に転じる姿勢になっている」
ウンウンと嬉しそうに頷く凍座白也を尻目にしとりに駆け寄って怪我していないかを確かめる。電光丸で物を斬るなんて、どうやっているのかも気になりますが、それよりも怪我していないんですよね?
強く育ってくれたのは嬉しいです。
でも、私なんかのために無茶して、しとりが怪我を負ってしまったら、私はとても悲しいです。心配で心配で仕方なくなります。
だから、危ない事は控えてね?
「ん!努力する!」
「それは聞かないヤツでしょう」
ちょっとだけ安心しましたが、凍座白也はやっぱり悪い人だと再認識しました。この人は根本的に戦うために生きている。それ以外の物事に、まるで興味を持っていないと言うべきなんでしょうね。
もしものことがあったら、私は何を仕出かすのかも分かりませんよ。扱いには十分に気を付けて、しっかりとしてくださいね。
分かりましたか、凍座白也?