「手が腫れてるじゃねえか…」
「うぅ、痛いです」
しとりとひとえの寝静まった夜。
私は竹刀を打って弾く衝撃によって腫れた手を冷やしつつ、左之助さんに腫れを抑える軟膏を塗って貰い、包帯を巻いてもらいます。
しくしくと半泣きになりながら、しとりの前では気丈に振る舞って隠していた分、左之助さんの薬を塗り込む手の圧で泣いてしまう。
「痛っ、うぅ……」
「なんで受けたりなんかしたんだよ」
「す、少しでも母の威厳を保とうと…」
「元から威厳はあるだろ。怒らない母親はどうかと思うが、しっかりと悪いことは注意してるんだ。威厳を作ろうなんて思わなくていい」
指の一つ一つに包帯を巻かれ、右手が終わると今度は左手も手当てが始まります。いつもは私がしていることをしてもらうのは、少し新鮮です。
「んッ…」
「キツかったか?」
「いえ、顔が近くて」
「今更だな。ほら、手首も巻くから、此方こい」
腰を掴まれて左之助さんのお膝の上に座り、手首も丁寧に固定してくれる左之助さんにお礼を言いたいのですが、これだと着物の着替えに支障を来すんですけど。
「あの、もう少し緩めに…」
「ダメだ」
「なぜ?」
「折角の機会だからな、お前の着替えを手伝う練習でもしようかと思ってな」
「ゆ、浴衣です!?寝巻きの浴衣ですよ!?」
帯を触ろうとする左之助さんにビックリしながら、抱きついて抵抗するものの、あまり効果はなく抱きついたまま眠ることになりました。
「……離してほしいです」
「は?離すわけねえだろ」
「(最近、束縛性が上がっているように感じるのは気のせいでしょうか?まあ、左之助さんは病んだりするわけないですもんね)」
むしろ、私の方が病んでいますし。
……自己嫌悪しそうです、最低です。
私もおかしいですね。
それにしても、です。
左之助さんと夫婦になって、こんなに幸せを享受できたのは良かったです。思い残す事は、ないとは言いきれませんが、みんなが無事に健やかに生きてくれるのなら、それだけで私は満足です。
「まだまだ生きてくれよな、景」
「……フフ、そのつもりです」
「へたくそ」
「ッ、ウソは言ってませんよ」
「丸分かりだよ、ばぁか」
私の事を組み敷いて見下ろす左之助さんの事を見上げるも眼鏡がないから、すごく怖くて仕方ない。でも、左之助さんなら大丈夫だと安心できます。
「……生きてくれよ、景」
「大丈夫です、私は生きていますよ」
最後の瞬間まで、ずっとお側にいますよ。
あなたのことが大好きです、左之助さん。