明治二十三年、秋になりました。
あと三ヶ月後には年も明け、ロシアの長谷川写真館にウイルク達は来訪し、「ゴールデンカムイ」の開幕のキッカケになる事件は起こります。
ドクトル・バタフライや北海道のススハム達は動けるようですが、「物語」の根底を引き起こす出来事に転生者は加担する事は出来ない。
因果律と言えば良いのでしょうか。
楯敷君も門矢君の初めての変身を邪魔する事もバックルやカードケースを奪うことも出来ません。いわゆる「お約束」という物は現実に存在するのです。
緋村剣心の顔もそうですね。
おっとり顔と抜刀斎顔に、ころころと変わる。
あれもそうです。
それに、こういうものは噂話の起こす変革でもあります。私の事を悪役やラスボスなど主人公と拮抗する実力者が狙うのも、バランスブレイクを恐れての行為と考えれば少し理解できる気がします。
「景、なんで自分の名前書いてるんだ?」
「みなさん、私の事をいつもいつも糸色景と呼びますから、相楽景だと理解して貰うためです。糸色の家名も大事ですが、私は左之助さんの妻ですから」
そう言うと「確かに、剣心も糸色呼びか」と頷いてくれ。私の気持ちを理解してくれます。しかし、左之助さんだけが分かってくれても、みんなは私の事を「糸色景」と認識したままになります。
「私は、相楽景です」
「知ってるぞ?」
「フフ、私も知っています」
「しかし、そう考えると景の事を糸色って呼ぶヤツは多いな。オッサンや斎藤、剣心もそうか。あとは小娘、眼鏡女、黒幕っぽいヤツとかだな」
「後半はもう悪口ですね」
私、まだ黒幕扱いなんですね。
こんなにも攻撃力も防御力も持ち合わせていない無害な存在はそう居ないと思うんですけど。*1
「景の悪口なのか、黒幕って」
「黒幕は裏から色々と人の事を操り、人の不幸を楽しんだりする人です。私の性格と真逆ですし、あんなものになろうなんて思いませんよ」
そう言いつつ、私は鉛筆を置く。
第一にです。
私は黒幕と言えるほど強くないです。
「黒幕とは、強く賢く美しくないといけません。人を惹き付けるカリスマ性。人を動かす支配力、痕跡を残さない手際の良さもそうです」
私にそんなものはありません。
「すげえな、全部当て嵌まるぞ」
「……左之助さんまで、私を?」
「ああ、いや、そんなつもりはねえぞ?」
でも、全部当て嵌まるぞって言いましたよ?