ゆっくりと身体を動かして固まった筋肉をほぐし、ここ数週間の身体の鈍りを確かめる景の身体を支えて、身体を動かす景の手を握る。
「フフ、今日は杖を用意しました」
そう嬉しそうに話す景は杖先が三本に分かれ、身体を支える力を強めた杖を突いてオレと一緒に道を歩く。好きなところに行かせてやりたい。
だが、もう景にそんな体力は残っていない。
「ふう、ふう…」
使いなれない杖を突いて歩くせいか。歩き方はぎこちなく、ふらつき、今にも倒れそうな景の身体に手を伸ばし、直ぐに手を握り締める。
今日は身体を動かす日だ。
オレは見守ることに徹し、景の事を見守らないといけない。景は明らかに無理をしているし、その事実にオレは気付いている。
だが、止めたら景の努力を否定する事になる。
本当なら抱き上げて歩いていけばいい話だ。それでも景は自分の足で歩きたいらしい。
「景、腕掴むか?」
「す、すみません、おねがいします」
だんだんと顔色の悪くなってきた景に右腕を差し出し、ひんやりと冷たい景の身体がオレの腕に当たり、汗ばみ、苦しげに呼吸する景は、やはり艶かしい。
「な、なにか?」
「いや、何でもねえよ」
まあ、そんなことを言えばいつものように困ったような笑顔をするだけだろう。バカみたいに笑うことはないが、景は意外と笑うことが多い。
「んッ…歩きにくいです…」
「抱っこするか?」
「……その言い方はやです」
「じゃあ、抱かせろ」
「もっとイヤですよっ、もう」
怒る景も綺麗だ。
オレより年下だが、もうすぐ三十を迎える女とは思えない幼さを感じさせる肌の質感をしているせいか。後妻だと勘違いされることがある。
オレは景としか夫婦になってねえよ。
「わっ、ゔっ…」
腰を掴んで抱き上げると苦しげな声が聴こえ、景の身体を向かい合わせになるように抱き上げ、トントンと背中を叩いてやる。
この小さな身体に入りきらないデカい何かが封印され、そのせいで景の寿命は磨り減り、今もこうして苦しんでいるんだ。
「景は軽いなあ」
「…………左之助さんは大きいです」
そう言って、オレの胸元に顔を埋めた景は、静かに眠り始めた。やっぱり歩くのももう限界なのかと歯噛みしながら、しとりとひとえの事を考える。
男なら泣くなと言えば済む。
しかし、二人とも小さな娘だ。母親の代わりになるヤツなんてそう簡単に出来るわけがない。景だから家族は仲良く出来ている。
だから、コイツが居なくなるのは嫌だ。
この世で唯一のオレの女なんだ。