お父様とお母様の滞在七日目。
ちょうど一週間を迎えた日、お父様に呼ばれて縁側に正座すると頭を撫でられました。お母様はしとりとひとえと一緒に甘味処に行っているため、家に居るのは私とお父様の二人だけです。
「よく頑張ったね。景」
「……はい」
「お頂さんに比べると良い父親じゃなかったかも知れないが、君に出会えて孫とも触れ合えた。君のおかげで楽しく面白い人生を巡っているよ」
「お父様は優しい父親でしたよ。私のために冊子を買ってくれたり、色々な本を買って一緒に選んでくれ、よく公演にも連れていってくれました」
「それは父親の見栄さ。娘に良いところを見せようと空回りするなんてじっとだったろう」
「フフ、それでも私はお父様の事を尊敬していますよ。姿お兄様の放浪後も私に責務を押し付けず、大事に扱ってくれました」
ゆっくりとお父様を見上げ、微笑む。
「ありがとうございます。お父様とお母様のおかげで私は幸せでした。ですから、泣かないで下さい。私も困ってしまいますから、ね?」
「いや、はは、涙脆くなった。私は姿に比べれば頼りないし、左之助君のように喧嘩が強い訳じゃない。それでも幸せに出来ていたんだね」
そう言って笑うお父様の手はクシャリと私の頭を撫でて、頬を撫でると離れてしまう。昔から絵を描けば褒めてくれたお父様の手は今でも大好きです。
───だから、お願いしているんです。
「だけど。私もお頂さんと答えは同じだ。景、身体が変わっても妖怪や化け物に変わってもいい。どうか死なないで欲しいんだ」
お父様の言葉に答えようと口を開きかけ、また直ぐに唇を噤み、目を閉じて深呼吸を繰り返す。
「お父様、人生とはゴールを目指す遠い道です。重い荷物は捨て、手ぶらで歩いたほうが楽しい。そう考えることも出来ますよね」
「ああ、そうだね」
「────でも、私は重い荷物を置いて、手ぶらで歩いてはいけないんです。私は、閻魔大王様に『地獄の鍵』を与えられたんです、人の身で扱うことは出来ぬ地獄の奥義、その鞘として私は役目を終えないといけないんです」
閻魔大王様の消えることを危惧する「人の繋がり」を保てるのは、もはや世界を繋げる「糸」たる私の子供達だけ。私の子供達は縁を紡ぎ、歩まねばいけない。
「閻魔大王様かあ……」
「はい。この世に生きる人達を守るため、私は地獄の業火を収める鞘となりました。まだ、この事は左之助さんにも話していません」
「そうか。……私ではもう止められないんだね」
「ごめんなさい。お父様」
私は、悪い子でした。