諏訪湖の周りを歩くみんなから、やや遅れ、呼吸の乱れる私を抱き上げて歩いてくれる左之助さん「ごめんなさい」と何度も謝りながら呼吸を整えたいのに、喉が掠れて、咳き込み、ひゅうひゅうと息が漏れる。
「辛いならオレ達だけでも帰るか?」
「ケホッ、忍者の…こほっ、暗号があったら…ゴホッ!ゴホッ!…読めないで、しょう?…ケホッ…っ…」
「そりゃあそうだが…」
私の事を抱っこして歩く左之助さんに、そう伝えると何とも言えない微妙な顔が私を見下ろし、ハンカチーフで口許を覆う私を左之助さんは静かに見てきます。
分かっています、危ないことも怖いことも。
それでもみんなが怪我するかも知れないのに、黙っているなんて私には無理です。怖いし、恐ろしいし、逃げ出してしまいたい。
だけど。
それ以上に大事な人達を見捨てるのはイヤです。
「……景、ヤバくなったらお前とガキ共だけ連れて逃げるぞ。いいな?」
お父様とお母様を見捨てると言ってくる左之助さんに言葉を言いかけて、口を閉じる。私が、やろうとしているのは、そういうことなんですね。
チラリと目の前を歩くお父様とお母様が転ばないように手を引いてあげている愛娘達の事を見つめ、明神君も燕さんと子供と一緒にいる。
「わかり、ました」
「……冗談だ。泣くなよ、な?」
「泣いてないですっ」
そう左之助さんに言いながら涙脆くなってしまったのは事実です。もう少し気丈に振る舞わないと、子供達に余計な心配をかけてしまう。
「で、暗号は解けるのか?」
「おそらくドイツ語でしょうし、語源さえ分かってしまえば解読は簡単です」
この時代だとアナグラムより頭文字と尾文字の組み合わせのほうが多いですから、読み書きさえ出来れば誰だって暗号は解けます。*1
「景のその知識は何処から来るんだ?一回、全部抜き取って馬鹿な景も見てみてえな」
「……イヤですよ、そんなの」
前世の、ちょっとイヤなイメージが来ますね。知識を奪うって能力は言わば簒奪や略奪系統のチートだと思います。アレはすごく怖いものです。
「左之助さんは、お人形が良いんですか?」
「悪い、失言だったな」
「いえ、私もすみません」
「ところでよ。剣心達とはぐれたな」
「来た道を戻って、左に行けば会えますよ」
「…………外で二人か」
「?」
私の事を下ろした左之助さんはジッと私の事を見下ろして、何かを考え込むような表情を浮かべながら、私の首筋や頬を撫でてきます。
いったい、なにがしたいんでしょうか?