某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

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喧嘩屋の斬左 急

あの後、食事処「赤べこ」で自由民権を叫ぶ悪酔いした青年達の騒動で喧嘩が起こり、緋村剣心が居るのも気にせず、左之助さんは彼との喧嘩を控えているのに、他の喧嘩を始めるという暴挙に出たのだ。

 

まあ、あの程度の相手は食後の軽い運動にもならなかったみたいだけど。今から本当に左之助さんは、あの幕末最強の人斬り抜刀斎と戦うのだ。

 

しかし、私は彼が負けると知っている。

 

それを知っているのに私は彼らを止めず、比留間兄弟を引き連れて歩く左之助さんの隣を並んで歩く。彼の背中に掲げた惡一文字が目に映る。

 

「よう、喧嘩売りに来たぜ」

 

「つくづくお主は喧嘩の中心にいるでござるな。糸色殿は兎も角、拙者はお主が其処のゲスに与する様な男には見えなかったが」

 

「気にすんな、コイツらは依頼人だ。幕末最強の人斬り抜刀斎をブッ倒してくれって言うな」

 

「……成る程、喧嘩好きのお主の興味を惹くわけだ」

 

緋村剣心は左之助さんの言葉に納得し、神谷さんの私を見つめる目に困惑と不安の色が混ざり、申し訳無さに頭を下げてしまう。

 

それから場所を移すと言う話になり、私は比留間兄弟と左之助さんに囲われるように歩き出す。

 

「(……この構図やめてくれないかしら?すごく目立っているし、なんなら悪女みたいになって、私が主犯に見えちゃうわよ)」

 

そんなことを心中で切実に訴えるも三人に聴こえるわけもなく、私は河原に着くと同時に比留間兄弟と神谷さん、明神弥彦の調度真ん中辺りに立つ。

 

「まずは自己紹介しとくか抜刀斎。オレの名は相楽左之助、東京の裏じゃそこそこ名の通った喧嘩屋。───んで、裏での通り名は斬左『斬馬刀』の左之助だ」

 

「流浪人、緋村剣心。この逆刃刀で相手する」

 

二人の名乗りに固唾を飲んで見守る私達が最初に見えたのは逆刃刀を袈裟斬りに振るい、左之助さんに強烈な打撃を与える緋村剣心の姿だった。

 

───けれど、その程度で左之助さんは倒れない。

 

飛天御剣流の一撃の重さを耐え得る肉体を持つ左之助さんは土煙を切り裂き、突き抜けて斬馬刀を縦に振り落とし、地面を圧し斬り、そのまま長い柄を右脇に挟み、薙ぎ払いの攻撃に繋げる。

 

「その打たれ強さは、中々に崩し難いな」

 

「おう!毎日喧嘩で鍛えて、良いもんを毎日食って、良い女が世話してくれるからな!」

 

「それは何とも……」

 

良い女のところでみんなが一斉に私を見つめる。

 

「……やっぱりコレなの?」

 

「いや、親指を立てないで下さい」

 

ピコピコと親指を動かす神谷さんの問いかけを否定もせず、止めるようにだけ伝える。そもそも左之助さんは奥様方や女学生にモテるのだ。

 

私に惹かれる要因は皆無でしょうに。

 

「うぉらあっ!!!」

 

そんなやり取りを私達が続けている最中にも関わらず、緋村剣心の疾い踏み込みと同時に繰り出された逆刃刀の乱れ打ちが左之助さんの身体に食い込み、柄頭の打突が胸部にめり込んで彼を吹き飛ばす。

 

今度は土煙を手で払いのけて左之助さんは歩き出す。やっぱり少しおかしい。さっきの連撃は原作で言えば左之助さんを気絶寸前まで追い込んだ飛天御剣流「龍巣閃」の筈、それなのにどうして倒れなかったの?

 

…………あっ、これ私のせいだ。

 

出会った頃の左之助さんは強さを求める喧嘩に明け暮れていたせいか、身体もボロボロで生傷も多かった上、今よりも痩躯だったから、つい健康的な肉体を作るために必要な食事を考えて、毎日食べさせていたわね。

 

「頑丈さは折り紙付きだぜ、抜刀斎!」

 

「ならば攻撃の質を変えれば良い」

 

そう言うと緋村剣心は逆刃刀を脇に構えた正眼ではなく下段の構えに構えを変更し、砂利まみれの地面を蹴って素早く踏み込み、左之助さんの懐に潜り、凄まじい強打が彼の顎をカチ上げ、その勢いを殺さず、斜めに身体を翻して、顎へと二度目の強打を加えた。

 

「暫く立てぬが此にて喧嘩は終いだ」

 

緋村剣心がそう左之助さんに伝えるために近づき、私達も土手沿いから二人のところに歩き出そうとしたその時、さっき脳を揺らされて仰向けに倒れた筈の左之助さんが幽鬼のごとく立ち上がる。

 

「……負けられねえ…オレは負けられねえんだよ…」

 

「斬左、何故そこまで勝ちに拘る。お主であれば喧嘩屋などせずとも食っていける強さはあるだろう」

 

その言葉を緋村剣心が投げ掛けた瞬間、私の真横で鉄砲の炸裂する音が響き、緋村剣心の身体が後ろに跳ね飛ぶ。────刹那、軌道も滅茶苦茶な斬馬刀が再び私の真横を突き抜け、比留間兄弟を吹き飛ばした。

 

「チッ。オレの喧嘩で余計な真似しやがって、今回の喧嘩はもう終いだ。だが、テメェを倒すのはオレだ。斬左がテメェに勝つまで他の誰にも負けんじゃねえぞ」

 

「嗚呼、肝に銘じよう」

 

「ならそれで良い。帰るぞ、いと、し、きぃ…」

 

緋村剣心に宣戦布告を叫び終えた瞬間、フラリと左之助さんが私の身体に倒れてきた。痣や裂傷で血まみれの身体を落とさないように左之助さんの腕を首を腕を回し、彼を連れてごろつき長屋に帰る。

 

しかし、一抹の不安は現実になりつつある。私という存在によって左之助さんの通り名『斬左』は消えず、緋村剣心の仲間になるという事も無くなってしまった。

 

「ごめんなさい、左之助さん」

 

私はそう気を失った左之助さんに伝える。

 

 

 

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