「よう」
「…陸奥、さんですか?」
また少し老けた陸奥出海が塀を乗り越えて入ってきた事にビックリしながら、用件を聞けば「嬢ちゃんに許嫁が出来たらしいな」と聞き返してきた。
「はい。剣路君です」
「あの坊主か。確かにあの坊主が相手なら天兵じゃ嬢ちゃんを射止めるには足りないな」
「なに勝手に入ってきてやがる!」
ドタドタと走ってきた左之助さんの飛び蹴りが陸奥出海の身体を捉えるも軽やかに威力を消され、二人とも無傷のまま庭先に着地した。
「いきなりな挨拶だな」
「うるせぇ、人がガキ寝かし付けてる間に忍び込みやがってブッ殺すぞ」
「ハッ。出来もしないこと言うかよ」
「あぁ?」
「あ、あの、喧嘩はやめてほしいです」
「喧嘩じゃねえよ」
「嗚呼、そうだ。喧嘩じゃない」
「「殺しあいだ」」
ひぃんっ…!
恐い顔で睨み合う二人の言葉に泣きそうになりながら部屋の隅に移動し、座布団を盾のように構えて衝撃に備えていると金色の蝶々にふたりは包まれてしまった。
「全く何をやっているんだね?」
「ど、ドクトル?」
「無論、私だ。新しく出来た予防薬を飲んでもらいに来てみれば喧嘩しようとする大人がいるとは。少しは糸色君の事を労いたまえ」
そう言って二人を落ち着かせようとしたドクトル・バタフライだったけれど。左之助さんの身体は真っ赤に燃え上がり、青白い雷撃を発する。
陸奥出海もまた全身から蒸気を放つほど膨大な熱を放ち、ドクトル・バタフライのチャフを吹き飛ばしてしまった。
「(左之助さん、遠隔でも鎧と鉾の力を使えるようになっていませんか?)」
ただでさえ強いのに、陸奥出海までシバリングを使ってチャフを退けています。もはや人という枠組みに収まっているのが怪しいです。
……私、今夜あの人と?
ちょっとだけ不安になりつつ、チラチラとドクトル・バタフライを見上げるも親指を突き立てて、ピコピコとしてきました。
だから、それはやめてください。
「左之助君、この前の部屋を貸そう」
「よし、乗った」
「左之助さん!?」
あっさりと意見を違えた左之助さんに思わず、ビックリする私に左之助さんは「じっくりと過ごそうな」と言ってきました。
ゆっくり、ではなく、じっくり。
不安と、ちょっとの期待があります。
「なんの話だ?」
「夫婦の話だ。お前は帰れ」
左之助さん、当たりが強いです。
そんなことを考えながら、左之助さんは私に手を伸ばしています。素足で庭に出たから足の裏を洗うまで、家に入れないので仕方ないですね。