しとりの牙突に対抗する手段を持っていないひとえはジリジリと間合いを削られ、大広間の真ん中で必死に不可視の突進を避けています。
不可視の突進と言っても私には見えていますし、ひとえもだんだんと適応しています。それに、少し紫がかっていたひとえの目は赤色を増し、瞳は赤に変わる。
「あれは、まさか写輪眼でしょうか?」と一人で真剣に悩みつつ、ひとえの目はしとりの事を捉え、四方八方から繰り出される牙突を往なし始める。
「壁や天井を蹴ってるのか」
「すごいですねえ」
「あは、あはははははは!!ねーさますごい!ねーさまつよい!ひーもそれする!」
天井の仕切りを爪先で挟み、逆さまに着地したしとりを見ながら、ものすごく笑顔になっているひとえに左之助さんの片鱗を感じます。
「左之助さんにそっくりです」
「あそこまで笑わねえよ」
しとりは天賦の才能に加えて、コツコツと努力を惜しまない真面目な性格ですが───。
ひとえは
おまけに、私の『特典』の『前世の記憶の保持』から変質してしまった「未来予測」と「未来予知」に加えて、サンピタラカムイ様の神酒の効能の変化した「癒やしの力」も持っている状態なのです。
「(まあ、しとりの目も特別です。一度見てしまえば全ての技術を手中に納めてしまえる上、左之助さんと姿お兄様以上のバトルセンスです)」
「ねーさま、倒したー!」
「ん、違うよ。今、斬ったのは前のわたし」
「残像か?」
「どちらかと言えば幻影ですね」
そう言いながら、私は左之助さんの右腕を蹴り、再び加速するしとりを見つめます。もはや剣士というより忍者になっていますね。
「ここ!」
「ん!!」
紫煌剣と鳳凰天舞の衝突は目映き光を発し、二人を吹き飛ばす結果に終わりました。あのまま続いていたら、もっと大変な事になっていました。
「えうっ、ひぃぃぃんっ」
「ん!!ひーちゃん、大丈夫!?」
襖を壊して倒れたひとえが泣きそうになった瞬間、さっきの戦いよりも遥かに数十倍は素早く動き、ひとえの事を抱っこして、よしよしと頭を撫でるしとりに、ほうっと安堵の吐息をこぼす。
「ひとえ、おいでぇ」
「かーしゃまあぁ……」
「よしよし、痛かったですねえ。しとりも痛かったでしょう?おいでえ」
「ん、わたしは大丈夫だからひーちゃん」
そう言って離れようとするしとりの手を握り、左之助さんに「足を捻っているかも知れませんから、恵さんのところに連れていってあげて下さい」と伝え、私はたん瘤の出来たひとえを優しくあやしてあげる。