「もし、糸色景様はご在宅でしょうか」
鈴のように綺麗な声が聴こえ、書斎の窓に顔を向けると口許に黒子のある黒い女の人がいた。その顔もその出で立ちにも見覚えがあります。
「糸色景は私ですよ、陽炎さん」
そう言って私は窓枠に「伸」のモヂカラを与えて、入り口を作り、「烈火の炎」の主人公・花菱烈火の実の母親たる影法師の陽炎に微笑みを浮かべ、部屋の中に招く。
「やはり、私の事を知っているのですね」
納得と警戒の色が見える。
「知っていると言えば知っていますし、知らないと言えば知りません。ですので、ゆっくりとお話ししましょう。お茶を飲みながら」
湯呑みと急須を用意し、小さなテーブルを挟んで私は影法師の陽炎を見据える。焦燥と不安、少しの希望を抱く彼女の目的は、おそらく花菱烈火に会うこと。
そして、不老不死の呪いを解くこと。
「改めまして、相楽景です。糸色は旧姓になります。景か、相楽のどちらかで呼んでもらえると」
「では、景様とお呼び致します。私の事は陽炎とお呼び下さい」
「分かりました。陽炎さん」
ゆっくりと御茶請けの和菓子を用意し、目の前に座って私の事を見据える彼女の視線を受け止める。他の「物語」の関係者達と違い、この人は自分の大切な子供と再会するために頑張っている人です。
「あの『烈火の炎』という絵草紙を読み、確信しました。烈火は、私の息子は百年後の未来まで飛び、幸せに過ごしているのですね」
「……はい。まだ途中ですが、貴女が加わることで流れは長く確実なものに変わります」
「会えるのですねっ」
ガタンとテーブルが揺れる。
けれど。四百年も自分の子供に会えていないのですから、その反応は当然です。きっと、私だったら会うことも諦めて、おかしくなっています。
「烈火、烈火…!」
涙を流す彼女の事を抱き締め、ゆっくりと背中を撫でる。大切な家族に会えると、私の描いた漫画で分かってくれたのなら喜ばしいことです。
左之助さんが戸の隙間から除いてきますが、首を横に振って大丈夫だと伝えます。背中に蛮竜の月牙が見えていたので、少しだけ焦りました。
「(左之助さん、この人はいい人です)」
そう目配せをします。
「(オレの景に抱き着きやがって殴るか)」
あ、ダメですね。
私の胸に顔を押し付けているだけで、ものすごく怒った顔になりました。ダメです、この人は優しくていい人です。襲っちゃダメです。
そんなことをしてはいけません。
左之助さん、ダメですっ!
絶対に悪いことですよ、不意打ちなんて!