しとりの許嫁、剣路君が荒んでいます。
しとりに負ける度、悔しそうにしています。ただ、その度に左之助さんは満足そうに笑っていますが、悔しさを笑うのは悪いことです。
左之助さんも笑われたくないでしょう。
精神統一を始める剣路君の隣に移動し、ゆっくりと面具を外して手拭いで汗を拭き取るしとりに剣路君の顔は真っ赤に染まり、チラチラとしとりを見ています。
「マセガキが」
「(左之助さん、あなたも数え年の十五歳の女にアプローチしていたじゃないですか。まあ、私は告白されるまで気付きませんでしたけど)」
ですが、よくよく考えると長屋に居た頃の私って何気に凄いことしていますね。交際していない男性がいるのに、裸で行水していたわけですし。
もうちょっと危機感は必要でした。
あの頃の私は不安ばかりで、あと脳機能の大多数を「特典」によって圧迫していたわけですし、あのような事になるのも仕方ないです。
「……ところで、左之助さん」
「なんだ」
「なぜ、覗き見なんでしょう。いつも道場の中に入って剣路君を睨んでいるのに」
「弥彦に怒られた」
そう訊ねると、不満そうな表情が見えた。
いったい、何をしたんですか?と聞けば「しとりにちょっかい出す男共を殴り倒した」と言われ、私は苦笑を浮かべることしか出来ませんでした。
やっぱり、家族愛の強い人です。
「あ、此方に気付いたな」
「そうなんですか?」
私の身長では道場の小窓を覗けませんから左之助さんの言葉を聞いて、そういうものだと理解するようにしています。
ただ、羨ましいです。
「私も大きくなりたいな…」
「もうすぐ抜かれそうだもんな」
「うっ、気付きたくなかったのに」
しとりはもう数え年の12歳です。
身長は146センチ。あと4センチほど延びたら、しとりと私の身長は並んでしまいます。子供の成長というものは嬉しいですが、母の威厳が……。
いえ、それはありますね。
「父様、何してるの?」
「お前に近付こうとする不埒なゴミクズ野郎を見つけたら背骨をへし折ろうと思ってな」
「ん!折っちゃダメなんだよ?」
きっと不思議そうに小窓を見上げて、話しているのでしょうけれど。背丈の足りていない私には、まだしとりは気付いていないようです。
もしも気付いていたら、どうしましょう。
いわゆる出歯亀というものをしているわけですし、しとりも流石に困ってしまいますよね。
「母様、いるの分かってるよ?」
「フフ、バレてしまいましたね」
「ん!わたしはちゃんと分かるからね!」
流石は左之助さんの娘です。