「王手」
「……此処でござる」
「では、此方に」
パチンと歩を進め、緋村剣心の金角を獲る。
「ムッ……手薄な此方を」
「其処は悪手です、王手」
「おろぉ…なぜ?」
「ここ、最後の4八銀のときです。緋村さん、また飛車を使おうとして玉将を前に出してるんです」
「守角に気をやっていたわけでござるか」
ウームと唸る緋村剣心の攻め手は相振り飛車に近しく、令和まで続く現代知識を持つ私の返し手に対応する手段は持っていないんです。
私は深く攻めず、待って駒を獲る後手必殺です。臆することなく攻めてくる緋村剣心の将棋はとても楽です。その場所まで誘導していけばいい。
盤上のやり取りなら私は負けません。
リアルファイトは無理ですけど。
「糸色殿、拙者が勝つとしたら」
「飛車ではなく銀を使っておけば、逆に私の銀を奪えて手薄な陣形を崩せていましたね。まあ、その場合は、ここに進んでいた歩が玉将をとりますけど」
「やはり思考を用いる勝負は難しいでござるな。そもそも盤上遊戯でお主に勝つ自信が出ない」
「ドクトルは私に勝っていますよ?」
流石は前世を深めて高年者だと感心しましたし、なによりスゴいのはドクトル・バタフライの手段です。負けそうになると将棋の駒を変形させ、チェスのナイトにしたりします。
アレは流石にずるいですよね。
「剣なら」
「無理やりですね」
「しかし、しとり殿に剣を教えたのでござろう。左之に竹刀を握っていたと聞いたが?」
「……アレは、しとりに当て鎧にされたんです」
すっと視線を逸らします。
好き好んで、殴られたいんですか。
しとりも手加減していたとはいえ、一度も竹刀を振るなんて経験したことない私が、どれほど怖かったと思っているんですか?
私の身体で勝てると思っているんですか?
「剣路君と稽古しているんですよね」
「打ち込みは綺麗でござるよ」
そう言いながら緋村剣心は剣路君の才能をすごくアピールしていますけど。どちらかと言えば、しとりのほうが剣術の腕前は上です。
「ふむ、糸色殿は難しいでござるな」
「分かりやすいと思いますよ?」
「いや、難しいでござる。拙者も読みには強いが、糸色殿の読みは幾つでござるか?」
「将棋の話なら常に五百手ほど組み替えて、組み合わせて、組み揃えていますけど」
「それでござる。拙者でも百手ほど思考するのが限界、しかし、糸色殿は五百手と拙者の四倍、更に此方に合わせて手を変えている」
「普通なのでは?」
「普通ではござらん」
成る程、道理で怪しまれるわけですね。