「……左之助さん、これは?」
「観柳の送ってきたヤツだろ」
あからさま過ぎる賄賂ですけど。
此方は、どう返答するべきなのでしょうか?と首を傾げて、悩みながら風呂敷の結びを解くと茶器が入っていました。ご丁寧に茶葉もあります。
「景、何処の茶葉だこれ?」
小さな箱を差し出す左之助さんから箱を受け取り、少しはしたないですけれど。銘柄も名前も書いていない茶葉を使うのは怖いので、スンスンと鼻を近づけて茶葉の匂いを嗅ぎます。
「これは、紅茶の茶葉ですね。印度のチャイに近しいですけど、香りが少し違います」
「いんど」
「飲んでも問題ありませんよ。ただ、飲むときは牛乳を加えて飲みましょう」
この時代の紅茶は渋味を感じるものが多いですし、なにより子供達も楽しめるのはミルクティーです。抹茶を仕立てても苦くて飲んで貰えません。
「他のも分かるのか?」
「清国の茶葉もありましたよ。此方は蒸すように淹れた方が美味しいです」
「飲み物を蒸すのか」
コーヒーミル、欲しくなりますね
「(お妙さんは珈琲の香りがする人だったし、未来の子供達の嗜好品も気になってしまいます)」
「景の知識は何処から来るんだ」
「本からです」
「車の本も家にあるのか?」
「ありますよ。ほら」
明治時代の最先端。
車の仕組みや原理を記した本です。まだ国内生産量は少ないですが、お父様に連絡して設計図を送ったところ、車の生産会社が出来ました。
やっぱり、お父様は商才の塊です。
芸能に携わるためコネクションも多く、その手の支援も多く、気が付けば我が家は拡大しています。多分、私の描いていた気球船も作りますね。
「(まあ、まだ黒歴史ノートに描いているんですよね。あのスケッチブック、未だに最後のページに到達しませんし。ひょっとしてプレシャス化してます?)」
具象化したら、どうしましょう。
「変なこと考えてねえか?」
「考えてませんよ?」
左之助さんは、いつもそれを聞いてきますけど。そんなに変なことを考えているように見えるのかしら?と自分の顔を触っても、とくに変わっていません。
やっぱり、左之助さんの気のせいですね。
「まあ、景の言葉なら信じる。ところで、茶器の真ん中に雅桐の文字があるんだが」
「そちらは盗作と贋作ですね。出来映えは本物の足元……いえ、足元どころか地中以下です」
それにしても、よく比古清十郎の作品を盗作して贋作を作ろうとしますね。やっぱり、そういうところは全く変わっていないようです。
本当に悩ましいですね、武田さん。