「あ、糸色先生、聞きましたよ。お弟子さんを取られたんですよね」
「……?いえ、私は個人ですよ?」
『烈火の炎』の中盤を書き終えて、そちらを出版社と活版印刷の社員さんにそんなことを言われ、思わず、首を傾げてしまう。
「またまた、ほら持ち込みがありましたよ」
そう言って差し出されたのは「うしおととら」に似た。しかし、明らかに自分の妄想を押し付けているような外観にこめかみを押さえてしまう。
「(うしおととらに自分を押し込めて、いわゆる夢漫画という自己投影したキャラクターを加えた二次創作。個人的に楽しむのは構いませんが、流石に売り出そうとしているのはダメでしょう)」
「……この絵を描いた人は、どこに?」
「一色景さんなら向こうですよ」
いっしきけい。
私の名前を真似ていますね。
若い女の子ですね。女学校に通っているのか、少し派手な紅色の口紅を塗っていますが、どちらかと言えば口紅を塗らない方が綺麗ですね。
「あら、あなたどちら様?」
「初めまして、糸色景です」
「……あなたが?随分と質素な見た目だけど」
「フフ、私は派手な装いが苦手なんです」
ゆっくりと彼女の目の前の席に座り、向き合う。高圧的というよりツンツンしているだけですね。高飛車なお嬢様。そういう例えの似合う女の子です。
「あなた、本当に糸色景なのかしら?」
「はい。そうですよ。一応、表紙の脇に自画像を印刷しているそうなんですが、やはり見てもらえていないのでしょうか?」
「フン。知ってるわよ、ただ想像より小柄で顔色も優れないから気になっただけよ」
成る程、ツンデレ属性も備えている。
すごい逸材ですね。そう感心しながら一色景の事を見つめますが、おそらくペンネームですね。それにしても、なぜ彼女は頬を赤らめて?
「糸色先生、何か不都合でもありましたか」
「いえ、不都合ではないですけど。完結した作品にまた人を無理やり加えて、そちらをまた始めるというのは極めて危ない事です。───そちらのあなたも気を付けて下さいね」
「ッ、えぇ、聞いてあげるわ」
そう言うと彼女は身体を震わせて、顔を真っ赤に染めながら帰ってしまった。
これで、減ってくれると良いんですけど。
それにしても明治時代に二次創作を産み出すとは流石は「うしおととら」ですね。不朽の名作。私の原点とも言える物語です。
フフ、みんなに広まると良いですね。
世界に広がれ、というやつです。
「先生、どうかしたのかな?」
「さあ?」
「少し熟考していただけですよ」